本研究は, 東日本大震災に伴って発生した福島原子力発電所事故の2年後に, 福島県内の仮設住宅において避難生活を送る住民の心的外傷後ストレス症状と, そのストレスに影響を与える身体・心理・社会的要因を明らかにしたものである. 2,425世帯に対して無記名で任意回答のアンケート用紙を配布し, 745名 (回答率30.7%) の回答を得た. 欠損値を除く661名の解析を行ったところ, IES-Rの平均値が34.20±20.56であり, PTSDの可能性に対する高いリスクを示すカットオフ値24/25を超えた者が62.56%であった. PTSDの可能性との関連を多重ロジスティック回帰分析で検討した結果, 「経済的困難」 (OR : 2.34, 95%CI : 1.30~4.24), 「賠償の心配」 (OR : 4.16, 95%CI 1.26~13.76), 「持病の悪化」 (OR : 2.94, 95%CI : 1.63~5.30), 「新疾患の罹患」 (OR : 2.20, 95%CI : 1.21~3.99), 「相談者の不在」 (OR : 1.92, 95%CI : 1.07~3.42) が有意な予測因子として認められた. これまでに世界各地で報告されてきた他の災害と比較しても, 原発事故被災者にきわめて高い外傷後ストレス症状が認められた理由として, 事故に対する補償や賠償といった問題など, 本災害の人為災害としての要素が重要であると考えられた.
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