2016 年 14 巻 p. 41-49
本稿では、原発事故と報道に関して、NHK記者として筆者が経験し、そこで得た課題について議論する。
事故発生時に初報が遅れた原因はどこにあるのか、緊急時に情報の正確性が確認し難い状況の中でメディアがいかに視聴者にメッセージを投げかけられるのか、記者会見などで発表される情報をどのように伝えられるのか、放射性物質の拡散を予測するSPEEDIシステムの情報をいかに扱うのか、放射線量の数値や低線量被爆の影響などをどのように伝えるのかなどについて論じた。
事故が起きるまで、原発事故のリスクを国やメディアが実際には直視できておらず、視聴者に「安全に絶対はない」ことをこれまで伝えきれてこなかった。現在、メディアに課された使命は、原発をめぐる規制、避難、賠償、除染など、正解のないテーマに向き合い、次なる災害に活かせるよう伝え続けていくことであると考えている。住民や専門家、行政など、さまざまな立場の方々に取材をし、多角的にとらえ、伝え方を探り続けていかなければならない。