補綴物と音声との関連を検討するために様々な音声分析機器を用いて研究が遂行されている.しかし,それらの機器は高価であること,操作が複雑であること,測定時に特別な部屋が必要なこと,および判定までに時間がかかることから,臨床においては実用的ではないのが現状である.
そこで,発音機能と補綴物との関係の一端を検索するため,チェアーサイドで測定可能で操作が容易な連続音声認識ソフトのAmiVoice EX Dentalを用い,健常有歯顎の青年被験者を対象に厚さ1.5mmと3.0mmの実験的口蓋床を装着させた群と非装着群における歯科に関する書き言葉の音声誤認識率,およびオーラルディアドコキネシスを測定し比較した.
その結果,各群別の平均誤認識率は,非装着群が3.5±0.9%,1.5mm群が4.8±1.6%.および3.0mm群が8.4±2.6%であった.床の厚みの増加に従い,平均誤認識率の上昇がみられ,各群間で有意差が認められた.また,オーラルディアドコキネシス値は/pa/における非装着群が6.6±0.9回,1.5mm群が6.3±0.9回,3.0mm群が6.5±0.9回,/ta/における非装着群が7.2±1.0回, 1.5mm群が6.8±1.0回,3.0mm群が5.9±0.9回,および/ka/における非装着群が6.7±0.9回,1.5mm群が6.2±0.9回,3,0mm群が5.9±0.9回であった.床の厚みが増すにつれて,全被験者に/ta/と/ka/の低下が認められ,非装着群と1.5mm群および3.0mm群間に統計学的な有意差が認められたことから,舌の運動抑制が考えられた.
以上のように,連続音声認識およびオーラルディアドコキネシスの観点から検討した結果,実験的口蓋床の装着は音声認識率を低下させることが示唆された.
抄録全体を表示