目的 : 歯頸部は歯科疾患, 齲蝕症や摩耗症の好発部位の一つとして知られている. 近年, フロアブルレジンがユニバーサルレジンに代わる操作性の良い審美性修復材として広く用いられている. 本研究の目的は, 口腔内環境想定の温度機械的繰返しストレス条件下における歯頸部修復応用のフロアブルレジンとユニバーサルレジン間の接着差違を明らかにすることであった.
材料と方法 : 本研究に先立ち, 適切な実験条件, すなわち温度機械的繰返しストレスの回数やレジン接着システムの種類を検討した. まず, 規格化V字状窩洞を30本のヒト抜去下顎小臼歯の頬側歯頸部に形成した. 窩洞は, 製造者の取り扱い説明に従ったエッチアンドリンス接着システムのAdper Single Bond Plus (3M ESPE, USA) によって前処理を行った. 次いで, フロアブルレジンのFiltek Supreme Ultra Flowable Restorative (F : 3M ESPE) またはユニバーサルレジンのFiltek Supreme Ultra Universal Restorative (U : 3M ESPE) を前処理後の窩洞に充塡し, その後, 光重合した. 修復試料は, サーマルサイクリング (5°C/55°C×200セット) と繰返し荷重 (118 N×10
4回) の同時負荷による口腔内環境想定の複合ストレスに供試した. 次いで, 厚さ1.0mmの2片の板状試片を各試料から得て, 修復窩洞の歯肉側象牙質窩壁上の被接着面を有する規格化ダンベル状試料に調整と形状設定を行った. その後, ダンベル状試料の微小引張接着強さ (μ-TBS) の測定を行い, 得られたデータ (n=30) は,
t検定およびワイブル分析によって解析した.
成績 : 規格化ダンベル状試料のMPa単位による平均μ-TBS値/ワイブル係数 (m値) は, Fが30.1/2.9, Uが24.4/1.2であった. FとUのμ-TBS値間に有意差は認められなかった. しかし, Fのm値は, Uの値より危険率1%で有意に大きかった. さらに, 累積破壊確率10%におけるFのμ-TBS値 (15.4MPa) は, U値 (4.5MPa) より危険率1%で有意に大きかった. また, 累積破壊確率90%におけるFのμ-TBS値 (45.1MPa) は, U値 (56.3MPa) と統計学的に同様であった.
結論 : 歯頸部修復に応用したFの接着は, Uよりも接着信頼性において有意に優れていた. 特に, 臨床的に意義ある条件として考えられる累積破壊確率10%において, Fによる歯頸部修復は, Uによる修復と比較して, 接着離断させるためにはより大きな外部応力が必要と考えられた.
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