抄録
症例は58歳女性である.54歳時より両下肢の異常感覚を自覚し,57歳時より左下肢の跛行を呈するようになった.その後筋力低下,歩行困難が徐々に増悪するとともに,左上肢の挙上困難,構音障害,嚥下障害が出現した.母,兄に類症をみとめていたことから常染色体優性遺伝形式の遺伝性疾患であると考えられ,MRI信号異常をともなう延髄,上位頸髄の萎縮の所見と併せて成人型Alexander病と診断した.GFAP遺伝子の検索によりこれまで報告のないS398F変異をみとめた.成人型Alexander病はまれな疾患と考えられているが,緩徐に脊髄症ならびに球麻痺を呈し,延髄,上位頸髄に限局した萎縮をみとめる症例の鑑別の一つとして重要である.