2004 年 24 巻 5 号 p. 953-956
鼠径ヘルニアにS状結腸が嵌頓し, その口側結腸に閉塞性大腸炎を呈した1例を経験したので, 文献的考察を加え報告する. 症例は72歳, 男性. 3日間排便なく, 腹痛, 嘔吐を主訴に近医を受診し, 当院へ紹介入院となった. 腹部の自発痛, 圧痛, 筋性防御と発熱を認めた. 左鼠径部に8×8cmの皮膚変色を伴う硬結を触れた. 腹部単純X線所見, CTにて大腸ガスを認め, S状結腸の鼠径ヘルニアへの嵌頓イレウスによる腹膜炎と診断し緊急手術を施行した. S状結腸は鼠径輪に嵌頓しており用手的に腹腔内へ還納し得た. 嵌頓部より口側結腸の拡張が著明で, 約26cmにわたり閉塞性大腸炎による全層性壊死を呈していた. このため左半結腸切除術を施行した. 鼠径ヘルニアにS状結腸が嵌頓することはまれで, さらに閉塞性大腸炎を呈した報告例はなく, まれな症例と思われた.