2008 年 57 巻 1 号 p. 30-36
オーステナイト系ステンレス鋼の母材および溶接金属の水素脆化特性に及ぼす化学組成の影響を45 MPaの高圧水素ガス環境における低ひずみ速度引張試験 (Slow Strain Rate Testing, SSRT) により調査し,ひずみ誘起マルテンサイト (α′) 相生成およびδフェライト相有無の観点から機構を考察した.固溶化熱処理を施した母材および凝固ままの溶接金属ともに,脆化特性はα′相の生成量に依存した.Md30が高い化学組成ほど,また試験温度が低いほどα′相の生成量が増し,脆化感受性は増大した.また,溶接金属部に生成したδフェライト相は20%以下であったが,脆化に顕著な影響を与えなかった.α′相は亀裂先端部で連続生成することから,脆化特性に強く影響すると推定された.一方,あらかじめ溶接金属中に生成するδフェライト相は,本検討の範囲内では亀裂を連結させる作用は無いことから,脆化に影響しなかったと推定された.