日本作物学会紀事
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品種・遺伝資源
根系の深さが異なるコムギ実験系統群の過湿な水田圃場における生育と収量
小柳 敦史乙部(桐渕) 千雅子柳澤 貴司三浦 重典小林 浩幸村中 聡
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2004 年 73 巻 3 号 p. 300-308

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抄録

根系の深さが異なるコムギ実験系統である浅根性の9系統(浅根群)と深根性の9系統(深根群)を2作期にわたり栽培し, 土壌の過湿と追肥を組み合わせた処理を行って生育と子実収量を比較した. その結果, 2002年産の試験では過湿処理した水田, 対照として過湿処理を行なわなかった水田とも深根群に比べて浅根群のほうが収量が多かった. 浅根群のほうが収量が多い傾向は過湿水田でより強く, 無追肥区と追肥 1 回区では両群の収量に有意な差がみられた. これは浅根群では地上部全重と穂数において過湿処理による低下程度が軽微であったためである. 2003年産の試験では群間に有意差はみられなかったものの, 過湿水田では浅根群のほうが収量が多く, 対照とした畑では両群で同程度か深根群のほうが若干, 収量が多かった. 過湿水田で各系統が栽培された圃場内の位置の土面の高さを調べたところ, 栽培された位置により結果的に地下水位が高くなった系統ほど収量が少なくなる傾向が認められ, 同じ水位で比較すると浅根群のほうが深根群より収量が多かった. なお, 根の分布を調査した結果, 根系の平均的な深さを示す「根の深さ指数」からみて, 過湿水田よりも対照畑のほうが根系が深く群間の差も大きかったが, どちらの圃場でも浅根群の根系は浅く, 深根群の根系は深いことが確認された. 以上のことから, 遺伝的な浅根化によりコムギの耐湿性をある程度向上させることができるといえる.

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© 2004 日本作物学会
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