抄録
群落の乾物生産量は,いうまでもなく作物収量のもっとも重要な構成要素であり生理的諸過程を総合的に反映する.新たに解明あるいは開発された生理機能も,その収量形成上の意義は圃場での乾物生産量の評価を経て明らかになる.乾物生産の解析には,古典的には群落の乾物重増加速度(Crop Growth Rate, CGR),相対成長速度(Relative Growth Rate, RGR),純同化速度(Net Assimilation Rate, NAR)などの時間ベースの指標が用いられてきた.しかし近年では,光エネルギーベースの生長解析,すなわち生産量を受光量と受光量当たり乾物生産量(日射利用効率)の積として捉える見方を用いるのが主流になってきた.これは,日射利用効率が生育時期や気象条件に対して比較的安定しており,それゆえ葉群の光合成能や呼吸消耗といった生理的形質と関係づけやすいといった利点による.しかし,その評価方法の実際を取り上げた国内の文献は少ない.本稿では,日射利用効率の意義,解釈上の留意点,ならびに最近用いられる比較的簡便な測定法について,著者らの経験を含めながら述べる.なお,日射利用効率は,日射乾物変換効率や光利用効率とよばれることも多いが,ここでは作物学用語集(井上2010)に準拠している.また略語として,近年頻用されているRUE(Radiation Use Efficiency)を用いる.単位はg/MJである.RUEを詳細かつ総合的に扱った総説にSinclair and Muchow(1999)がある.