日本作物学会紀事
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高温・高CO2濃度環境が水稲の生育・収量に及ぼす影響 : 第1報 発育, 乾物生産および生長諸形質について
金 漠龍堀江 武中川 博視和田 晋征
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1996 年 65 巻 4 号 p. 634-643

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抄録

予測される地球規模の環境変化が水稲生産に及ぼす影響を明らかにするため, 温度傾斜型CO2濃度処理装置(TGC)を用い, 水稲アキヒカリの群落を対象に異なる温度とCO2濃度の複合処理を行い, 発育, 乾物生産および生育諸特性に及ぼす影響について検討した. TGCは長さ26m, 幅2.05m, 高さ1.7mのトンネル型のチャンバーであり, その長軸に沿って常に4での温度勾配が生じるように, 通気速度をコンピュータ制御により調節した. 実験には2つのTGCを用い, 1つのTGCは現行の大気CO2濃度(≅350μLL-1)を, 他方は690μLL-1のCO2濃度を維持させた. ポット(1/5000 a)植の水稲をTGC内に20株m-2の密度で配置したポット植群落(1991年)とTGC内の枠水田に25株m-2の密度で移植した枠水田群落(1992年)にそれぞれ肥料を十分あたえ, CO2×温度の複合処理を全生育期間にわたり行った. CO2濃度倍増処理は水稲の出穂に向けての発育を促進し, 出穂を早めた. その促進率は高温ほど大きく, 出穂までの平均気温が3O℃の場合のそれは11%にも及んだ. 草丈に対するCO2濃度および温度の影響は小さかったが, 茎数はCO2濃度に強く影響され, 全茎数と有効茎数ともCO2濃度倍増処理によって顕著に増加した. CO2濃度倍増処埋の葉面積への影響は, 幼穂分化期ごろまでの生育初期以降は極めて小さくなり, 過去の研究結果とよく一致した. 乾物生産はCO2濃度倍増処埋によって顕著に高まったが, それに対する温度の影響は小さく, 2作期の全温度区を平均してみたCO2濃度倍増処理による最終乾物重の増加率は約24%と推定された. なお, この乾物増加率の温度反応は過去の研究結果と異なったが, これは, 過去の研究は光が殆ど生育を制限しない孤立個体に基づいたものであるのに対し, 本実験の群落条件下では光が生育の制限要因となったためであると考えられる.

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