日本耳鼻咽喉科学会会報
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聴力評価法としての歪成分耳音響放射
千田 英二
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1998 年 101 巻 11 号 p. 1335-1347

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抄録

他覚的蝸牛機能検査法として注目されている歪成分耳音響放射(DPOAE)の臨床応用を進める上で,雑音•性別•年齢などの背景因子は重要であるにもかかわらず,それらのDPOAEへの影響についてはいまだ不明な点が多い.そのため,内耳性難聴506耳,正常聴力494耳において耳音響放射専用測定器ILO92を用いてDPOAEの測定を行いその背景因子を検討し,さらにその結果を考慮した上でDPOAEの他覚的聴力評価法としての有用性について検討を行った.その結果,雑音レベルの増大とともにDPレベルと聴力との相関の低下を認めたため,DPOAE測定の際には雑音レベルの小さな症例のみを評価可能なデータとすべきで,雑音レベルが大きな症例は判定不能として扱うべきと考えられた.また,DPOAEの周波数特異性は高く,オージオグラム上の聴力型を考慮せずに1kHz•2kHz•4kHzそれぞれの周波数ごとでの検討が可能であった.さらに,同一聴力レベルにおける検討では,DPOAEに性差を認めなかったが,良好聴力でDPOAEへの年齢の影響を認めた.これらの結果を加味し,正常聴力耳•難聴耳の相対累積頻度の検討,受信者動作特性曲線(ROC曲線)による検討および感度•特異度•偽陽性率の検討を行い,他覚的聴力評価法としてDPOAEは有用であると考えられた.しかしながら,加齢とともにDPOAEの有用性が低下する傾向を認めたことより,正常聴力耳と難聴耳を鑑別するDPレベル値,すなわちカットオフ値の選択の際には年齢を考慮した評価値を用いるべきであると考えられた.

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