抄録
症例は56歳,男性.腎硬化症により1991年から血液透析導入.間欠的な血尿を主訴に近隣泌尿器科受診し,膀胱鏡にて多発する腫瘍を認め,2008年9月24日当科紹介初診.膀胱鏡下生検で腺癌,尿細胞診で尿路上皮癌を認めた.CT,MRI上,壁外浸潤や転移なく多発性膀胱癌cT2N0M0の診断で,無尿の透析患者であることから膀胱全摘を選択,同年10月22日膀胱全摘術を施行した.病理組織所見は小細胞癌であった.精嚢浸潤と切除断端陽性,脈管浸潤を認めたため全骨盤への術後放射線外照射(total 60Gy)を追加した.その後2009年1月13日のCTで肝転移が出現,その後も増多増大傾向にて肺小細胞癌に準じ,透析患者であることを考慮しCPT-11とCBDCAによる全身化学療法を同年3月4日より開始した.合計6コースの化学療法を行い肝転移巣は著明に縮小,同年8月27日のPET-CTでは病巣を認めなかったため化学療法を終了し,その後脳転移の予防目的にtotal 30Gyの全脳照射を施行した.同年10月2日の評価CTにて左尿管下端と右腹直筋に新病変が出現した.セカンドライン,サードラインの全身化学療法を施行したが,病状は進行し初診時から約1年7か月後の平成22年4月28日永眠した.膀胱原発小細胞癌は稀な疾患であり,予後不良である.本邦において,血液透析患者に発症した膀胱原発小細胞癌に対して化学療法を行った報告はなく,今回われわれは,血液透析患者に発症した膀胱原発小細胞癌に対し膀胱全摘を行い,術後に発症した肝転移に対してCPT-11とCBDCAによる全身化学療法を経験したので文献的な考察を加えて報告する.