2018 年 49 巻 3 号 p. 193-204
動脈硬化の程度と死亡率の関係を明らかにするために本研究を行った。 外来通院の動脈硬化性疾患201名(65-96歳,平均76.7±6.6歳,男性52名,女性149名)を2006年4月から11年間(平均9.1年間)観察し死亡数を算出した。登録時に頸動脈内中膜厚(IMT)とCAVIを同時測定しCAVI+8xIMTを動脈硬化度とし,CHADS2スコアーを算定した。動脈硬化度とCHADS2スコアーにより高度動脈硬化(H)群と軽度動脈硬化(L)群にそれぞれ層別化し,各群での死亡率,生存率を比較し,年齢の死亡率に及ぼす影響を検討,さらに死亡に及ぼす要因を分析した。 動脈硬化度によるH群では死亡率が31.3%で,L群11.0%よりも有意(p=0.0004)に高かった。一方CHADS2スコアーによるH群の死亡率は42.1%で,L群10.3%より有意(p=0.0000004)に高値であった。 2種類の動脈硬化測定法毎に,H群およびL群における死亡率の年齢による影響を見るために,3区分の年齢群(Ⅰ群65-74歳,Ⅱ群75-84歳,Ⅲ群85歳以上)での死亡率を比較した。動脈硬化度で層別化したⅡ群のH群とL群での死亡率はそれぞれ0.370,0.143で,有意差(p=0.00001)が見られたがMantel-Haenszel法では有意ではなかった。 一方,CHADS2スコアーで層別化したⅠ群のH群,L群での死亡率はそれぞれ0.200,0.042(p=0.007)で,Ⅱ群のH群,L群での死亡率はそれぞれ0.375,0.164(p=0.0005)で,Ⅲ群のH群,L群での死亡率はそれぞれ0.667,0.250(p=0.002)で,すべての群で有意差が見られた。Mantel-Haenszel法でも有意(p=0.0034)で,年齢による交互性も見られなかった。 死亡に影響を及ぼす要因をAge,BMI,CHADS2スコアー,動脈硬化度,Alb,Hb,CRP,HbA1cを説明変数としてロジスティック回帰法で解析した。死亡に影響を及ぼす要因として有意だったのは,Age(p=0.0114),動脈硬化度(p=0.0219),Alb(p=0.0375)であった。 動脈硬化度により層別化したH群とL群におけるKaplan-Meier法による生存率の解析では,観察終了時における生存率はH群では59.7±13.9(SD)%,L群では90.4±2.9(SD)%,両者はログランク検定(p=0.003)および一般化ウイルコクソン検定(p=0.006)でともに有意差が認められた。一方,同様に,CHADS2スコアーによるH群とL群の生存率はそれぞれ,49.4±15.1(SD)%,90.7±2.6(SD)%,両者はログランク検定(p=0.0001)および一般化ウイルコクソン検定(p=0.0001)でともに有意であった。Cox比例ハザードモデルによる死亡要因の分析では,動脈硬化度,CHADS2,年齢,Albのハザード比は,それぞれ1.559191(p=0.311),2.411635(p=0.032),1.097882(p=0.005),0.258665(p=0.098)であった。 結論として,1)高齢の動脈硬化性疾患において,動脈硬化が高度だと,11年後の死亡率が年齢に独立して2.9-4.1倍高くなった。2)CHADS2スコアーは極めて簡便に脳卒中のリスクを説明するだけでなく死亡率をも説明できる有用な手段であると考えられた。