杏林医学会雑誌
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特集「公認心理師」
産業・組織領域から ~産業心理臨床の現況と発展への期待~
中村 美奈子
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2020 年 51 巻 1 号 p. 45-49

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抄録

労働者の精神疾患による労災認定の増加や過労自殺,女性や高齢者,障害者の労働参加の促進などが社会的課題となっている。公認心理師は国民の心の健康の保持増進に寄与することを目指し,働く人を対象とする産業・組織領域での活躍が期待されている。働くことは社会環境の影響をうける社会的活動であり,そこには人間の様々な課題が発生するため,働く人の個別性や生涯発達をふまえた臨床心理学的支援が求められる。また,組織,企業と働く人との関係性にも配慮し,働くことを取り巻く様々な現代的な課題への理解と,個人心理臨床のノウハウを集団や組織に応用する柔軟さが求められる。つまり,産業・組織領域での心理臨床は,働く人が職場で能力を発揮し,成長発達することと,組織が効果的に働く人を管理しながら組織の目標を達成することを目指す。これには,Bio(自己管理), Psycho(心理社会的課題), Social(対人コミュニケーション),Vocational(業務遂行)の4つの視点による支援が有効である。
産業・組織領域での心理臨床には,従来の相談室における個別的相談だけでなく,課題が発生している現場に出向いて関係者を巻き込み協働するアウトリーチ型支援や,社会制度や福祉サービスを適切に活用することも含まれる。クライエントである働く人と組織・企業のニーズに応えるには,心理臨床家も自分の特性や働く意味を検討しながら,働き方や臨床スタイルを柔軟に変える必要がある。

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