1986 年 83 巻 8 号 p. 1455-1460
トリクロルエチレン (Trichloroethylene, 以下TE) 暴露と大腸の腸管嚢腫様気腫 (Pneumatosis Cystoides Coli, 以下PCC) との間の因果関係を解明する目的で以下の検討を行つた. TEの慢性低濃度暴露による, と考えられた自験PCC症例3例のうちの1名が勤務する従業員63名の作業所で, 42名(男23名, 女19名)から採尿して, TEの尿中代謝産物である三塩化酢酸(Trichloroacetic Acid, 以下TCA)を測定した. 測定にあたつては, 従来の方法に一部改良を加えた. この作業所ではPCC患者が発生したために, TEを中止し, パークロルエチレン (Perchloroethylene, 以下PE) を使用しはじめてから, 約8カ月が経過していたが, このような暴露条件の変更にもかかわらず, 検診者全員の尿中TCAが陽性(平均2.4mg/l, コントロール平均0.2mg/l)であり, そのうち, TCA有害下限値である3mg/lを上まわる者が12名に見られた. 上記PCC患者 (症例1) は6.7mg/lと検診者中2番目の高値を示した.