Anthropological Science (Japanese Series)
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原著論文
縄文・弥生時代人における筋骨格ストレスマーカーの地域的多様性
瀧川 渉
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2015 年 123 巻 1 号 p. 15-29

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抄録

筋骨格ストレスマーカー(MSM)は,加齢に応じて進行することが確認される一方,生前の活動の激しさとも関連して集団間の進行度に相違が生じることが指摘されている。本研究では,縄文時代人5地域集団(北海道・蝦島・姥山・吉胡・津雲)と弥生時代人3地域集団(北部九州・土井ヶ浜・種子島)のMSM15項目の出現状況を調査し,その地域的多様性と縄文・弥生時代間における相違を検討した。縄文時代人では,男女とも多くのMSMで5地域集団間に有意差が認められることが判明した。特に北海道集団のMSMスコアは高くなる傾向にあり,主成分分析でも男性の北海道集団は他の本州集団と若干離れて位置付けられた。弥生時代人3地域集団と縄文時代人5地域集団との間の比較では,北部九州および土井ヶ浜集団において縄文時代人集団との有意差が確認された項目が多く,種子島集団では縄文時代人集団との有意差が確認された項目が少なかった。主成分分析の結果,北部九州集団は縄文時代人集団とはかなり離れて位置付けられ,土井ヶ浜集団は両者のほぼ中間に,種子島集団は縄文時代人集団と近接した領域にプロットされることが示された。これらの結果から,縄文時代人では生態環境に基づく北海道と本州の生業活動の相違がMSMに反映されたことがうかがえ,弥生時代人では水稲農耕を導入した集団と狩猟や漁撈に従事した集団との間でMSMパターンの様相が異なることが示唆された。

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© 2015 日本人類学会
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