美術教育学:美術科教育学会誌
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子どもが子ども自身になって描くための「全身のスクリブル」
宮武辰夫の方法論の系譜とその意義
大須賀 隆子
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2016 年 37 巻 p. 133-147

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抄録
宮武辰夫(1892-1960)は,戦前は原始民族芸術探究家として活躍し,戦後は幼年美術教育実践家として創造美育の幼児部門に多大な影響を与えた。全身を投入したスクリブルを存分に体験することが子ども本来の造形表現を育むことを多くの実践事例によって示した。宮武が提唱した「全身のスクリブル」の源流を辿ると,「現代美術の父」ポール・セザンヌ(1839-1906)に行き着く。文明批評家グレツィンゲル(1902-1965)は著書KINDER KRITZELN ZEICHNEN MALENの中で,幼児期の造形表現は五官と呼吸を通した全身的体験であり,セザンヌは子どものように自己自身と自然の根源的なものに浸るところから創造しようとしたと論じた。現象学者メルロ=ポンティ(1908-1961)は,セザンヌを梃子にして絵画と身体と世界の関係を論じた。宮武の「全身のスクリブル」の意義は,20世紀の文明が攪乱しようとした「存在の根そのもの」「感覚の源泉」から湧き上がる造形表現力を子どもに回復させ育てようとしたところにある。
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