抄録
本研究は,美術教育学分野での人間研究の深化を図ることを目的として,こどもの造形活動の事例分析において質的にアプローチする際に,意識的にトライアンギュレーションを用いた。具体的には,研究メンバーの 3 者が,理論的な立ち位置の異なる方法論で分析を行うことで,事例を捉える観点に複眼性をもたらした。今回扱った事例は,場所と材料・用具を共有するなかで行われた,幼児ペアによる描画活動である。 2 人が描いた描画空間は画面上で完全に分離しており,表面的にはパラレルに進行しているかのように見える活動内容であった。しかしながら, 3 者の分析を相互に参照することで,画面上の意味や物語性が読み替えられるタイミングが確定し,互いの存在が互いの表現を形作る協同性の在り方について,具体的な論拠をもって明らかにすることができた。