本稿の目的は,昨今の重要課題の一つである社会包摂に向けた日本の美術教育のあり方を検討していくための新しい視座を示すことである。本稿では,社会包摂に取り組む英国ロンドンのシアターカンパニーChickenshed のスタッフを対象としたインタビューに基づき,障害者の社会包摂を目指す舞台芸術活動について,「差異」と「障害」に対して活動実践者が抱く認識に着目した考察を行う。インタビューでは,障害は人々の間に存在する差異の一つに過ぎず, 社会包摂は障害だけでなく,あらゆる差異に対して追求されるべきとする観点が強調されていた。社会包摂の実現に寄与する舞台芸術活動を行うには,障害を既成の「障害」の枠組みに当てはめず,障害を含む多様性の美しさを引き出し表現することで,「差異」を学びや発見の機会とすることが重要である。