主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第71回大会
回次: 71
開催地: 名城大学
開催日: 2024/08/29 - 2024/08/31
p. 160-
【目的】食品科学分野では,咀嚼時の食べ易さや食感の定量評価のため,咀嚼装置・ロボットに関する研究・開発が行われている.従来装置は,ヒトの咬断・圧断を想定し,食品を単純圧縮破断して評価するものが一般的である.一方で,ヒトの臼磨を想定し,食品を磨り潰し,その過程の力学特性変化の評価を試みた研究は少ない.本研究では,臼磨を想定した咀嚼装置を開発し,食品粉砕過程における力学的特性の変遷を包括的に評価する手法を提案する.【方法】開発した装置を用いて「圧断」と「臼磨」の2種類のモードの人工咀嚼を実行する.圧断では,上歯が鉛直方向の振動のみを行い,食品を圧縮・破壊する.臼磨では,上歯が鉛直方向の並進と鉛直軸周りの回転動作を行い,食品を粉砕する.2つのモードをソーセージに対して実行し,ソーセージの鉛直方向の変形量と上歯への反力を測定する.測定データの振動成分の極値に基づいて定めた区間の平均値を傾向変動データと定義する.このデータを用いて,Burgers Modelの4要素の粘弾性パラメータを,最小二乗法を用いて推定する.このパラメータより,粉砕過程の食品の力学特性の変遷を包括的に表現することを試みるものとし,これらのパラメータを疑似レオロジー特性と定義する.【結果】食品の硬さに対応するパラメータに関しては,臼磨モードは圧断モードと比べて小さい値となった.これは,臼磨モードでは上歯の回転動作が食品を粉砕し,食品がより柔らかく変化するためであると考えられる.また,食品の粘性に対応するパラメータに関しては,臼磨モードは圧断モードに対して小さな値となった.これは,圧断モードでは食品が圧縮される過程で固体のように振る舞うのに対し,臼磨モードでは食品が粉砕される過程で流動的に振る舞うためであると考えられる.以上のように,提案手法によって,臼磨過程の力学的特性の変遷を包括的に評価できる可能性を示唆した.