【目的】小麦二次加工品は電子レンジによる再加熱により,レンジ焼けとよばれる硬化現象が生じる.この硬化現象は澱粉単独の硬化によって説明されることが多いものの,タンパク質単独や澱粉との相互作用による硬化も指摘されている.本研究では,主要な小麦二次加工品の中で比較的組成が単純なうどんおよびそのモデルを対象とし,硬化現象の分子レベルでの要因解析を行った.
【方法】冷凍保存したうどんをレンジ加熱して,物性試験を行った上で,うどんの微細構造の変化を光学顕微鏡およびクライオ電子顕微鏡で,成分の分布の変化をレーザーラマン顕微鏡で観察した.澱粉およびグルテンからなるモデルうどんをこれらの配合比率を変えて作製し,様々な加熱時間でレンジ加熱した後に,物性試験を行った.うどんと同様の微細構造観察を行った後,分光法を中心にして,粒子間相互作用の種類や強度を解析した.
【結果と考察】光学顕微鏡観察ではレンジ加熱により澱粉粒が小さくなることが確認された.クライオ電子顕微鏡観察では,レンジ加熱により澱粉粒内部の細孔が小さくなり,澱粉粒の周囲に位置するグルテンの層も薄くなる傾向が見られた.レンジ加熱が過剰なうどんでは,澱粉とグルテンの境界がなくなり、平滑な微細構造が観察された.レーザーラマン顕微鏡観察では,グルテンが凝集している様子が確認された.これらの結果から,レンジ加熱によって引き起こされる硬化現象には,澱粉単独によるものと,タンパク質単独によるもの,および2成分の相互作用によるもの3種が存在していることが推察された.澱粉とグルテンの濃度を変化させたモデルうどんで物性試験を行った結果,比例関係を前提とした場合,グルテンが澱粉の11倍硬化に寄与し,2成分の相互作用は硬化を抑制する方向に作用することが明らかになった.以上の結果に加え,グルテン中で働く疎水性相互作用や共有結合を測定した結果を報告する.