【目的】日本酒醸造における麹の製造工程では、良質な蒸米の精製とその内部への菌糸の伸長が重要であり、蒸米の溶解性は老化のしやすさに関係するとされる。また、デンプンの老化速度は水分や温度、pHなどに依存することが報告されているが、醸造初期工程での物理化学的特性についての報告は未だ少ない。醸造工程と同じ条件で評価するためには,試料の温度や水分率を高精度で制御する必要性ある。本研究では酒米と飯米を対象とし、低温条件での水分率35%前後の蒸米の老化熱をリアルタイムで測定した。
【方法】使用した試料米は、約5℃で保存した山田錦(精米歩合35%)、ひだほまれ(精米歩合60%)、コシヒカリ(精米歩合35%または60%)である。洗米・浸漬には約5℃の水道水を用いた。蒸気炊飯にはIHヒータベースの自作の蒸し器を用い、常圧下で湯浴沸騰後,米約2.0gを10分間その蒸気に曝し,その後測定用セルに封入して、測定温度である7℃で保存した。老化熱測定には、Thermometric製の等温マイクロカロリーメーターTAM2277を用い、測定温度は7.00±0.01℃とした。
【結果】全ての試料米で、測定開始後に熱出力の上昇が見られ、極大を示した後に指数関数的に減衰した。概ね水分率が高いほど熱出力が早く現れ、極大値が大きかった。酒米間の比較では、山田錦の方がひだほまれよりも熱出力の極大値は大きく早く現れた。老化熱量の経時変化は,典型的なシグモイド曲線を描き、精米歩合に依存し,同じ精米歩合の酒米と飯米でその傾向は類似していた。加熱調製後65 hでの老化熱量は、精米歩合35%の山田錦とコシヒカリでは水分率に依存せず、精米歩合60%のひだほまれとコシヒカリでは水分率の増加に伴って増加した。品種ではなく精米歩合で水分率依存性の有無が異なった原因は、試料米の構造と精米後の皮質厚さ等にあることが示唆された。