【講演者の紹介】
津田 孝範(つだ たかのり)
略歴:1988年3月 名古屋大学大学院農学研究科博士前期課程修了、1999年2月 博士(農学)(名古屋大学)
1999年9月:日本食品科学工学会奨励賞、2003年5月:日本栄養・食糧学会奨励賞
2014年4月より現在:中部大学応用生物学部・大学院応用生物学研究科教授
2022年6月: 日本栄養・食糧学会賞
演者は食用植物色素成分等のポリフェノールや、植物タンパク質、アミノ酸、蜂産品、乳酸の新しい生理機能と機構を解明し、有効利用のための基盤的研究を展開してきた。特に植物色素成分の健康機能研究(「紫」と「黄」のサイエンス:アントシアニンとクルクミン)、さらに植物色素以外のポリフェノール等の食品因子の健康機能を主に肥満・糖尿病の予防作用の視点から研究し、新たな分子機構を明らかにした。本受賞講演では、これまでに行った主な研究の成果を紹介する。
1.食用植物色素成分の研究
(アントシアニン)不安定で健康機能など考えられなかったアントシアニンの代謝・体内動態1)、生体内酸化ストレス抑制作用2)、脂肪細胞の機能制御3)、体脂肪蓄積抑制作用4)や耐糖能改善作用5) を世界に先駆けて報告した。特に体内動態については、アントシアニンの中で機能研究を進めていたシアニジン 3-グルコシド(C3G)の生体内吸収性を検討し、アントシアニンが配糖体のままで直接生体内へ吸収されること、しかしその生体内吸収性は非常に低いこと、C3Gの代謝物あるいは分解物としてC3GのB-環に由来するプロトカテク酸が生体内で検出されることを初めて報告した1)。生理機能発現機構に関してはAMPキナーゼ活性化5) やGLP-1分泌促進作用6)の関与を初めて解明した。さらにアントシアニンを含む素材の食品加工への応用研究等を実施した。以上の研究は、今日におけるアントシアニンの生理機能と代謝・体内動態の研究や有効利用の進展に先駆的な役割を果たした。これらの成果は世界中の多数の論文に引用されている。
(クルクミン):高生体内吸収性クルクミン製剤によるGタンパク質を介するGLP-1分泌促進と耐糖能改善作用7)、ベージュ脂肪細胞化の誘導作用とその機構を初めて報告した8)。なお、これらの効果は非製剤化クルクミンでは得られないことも併せて報告した。代謝・吸収関連の研究では、クルクミン抱合体の投与が生体内で遊離体クルクミン濃度を増加させ生理機能を高めることを発見した9)。さらにクルクミンの健康機能に懐疑的な論文における問題点と課題を海外学術誌から依頼されて発信した10)。また、低用量のクルクミン製剤と運動を併用することで骨格筋由来のIL-6を介して相乗的にベージュ化が促進することを明らかにした11)。直近では、低用量での新しいクルクミン製剤と運動の併用がBDNFシグナルを介して認知機能の向上作用を増幅させることをはじめて見出した12)。
2.色素以外のポリフェノールの研究
未利用資源の熱帯産豆類タマリンド種皮抽出物の抗酸化性と成分同定13)、超臨界二酸化炭素抽出による抗酸化成分の効率的な抽出法を確立した14)。糖転移へスぺリジンやフェルラ酸の研究では、これらの体脂肪蓄積抑制作用機構がベージュ化によることを白色脂肪組織での熱産生を測定する手法で解明した。直近では、フェルラ酸の利用障壁となる水難溶性・低生体内吸収性を改善するため、シクロデキストリン包接化による生体内吸収性の向上効果を発表し、有効利用の道筋を開いた15)。その他に大豆イソフラボンやショウガ成分のアディポネクチン発現低下抑制作用とその機構も報告した。
3.植物タンパク質、ペプチド、アミノ酸の研究
特定保健用食品のアミノ酸混合物 (Ala, Arg, Phe) を含むスポーツ飲料摂取と運動の併用による体脂肪減少の機構はベージュ化によること16)、植物タンパク質活用とその付加価値向上に関する研究として、大豆タンパク質の摂取量を減じても運動と併用するとATF4-FGF21経路を介して相乗的にベージュ化することを発表した17)。その他、His-TyrのAMPキナーゼ活性化作用18)、小麦タンパク質由来ペプチドのGLP-1分泌促進作用機構を解明した19)。
4.蜂産品の研究
蜂産品の活用を後押しする研究として、ロイヤルゼリー成分10-hydoroxy-2-decenoic acidのAMPキナーゼ活性化作用とその機構を発表した20)。ブラジル産プロポリス成分(Artepillin C)の研究では、アディポネクチン発現低下抑制作用とドッキング・シミュレーション解析による機構解明21)、ベージュ化とその機構22) および新規経路での熱産生機構23)、クルクミンとの併用による効果の増幅作用を明らかにした24)。
5.運動代替・補完食品因子研究への新たな展開
アミノ酸混合物の摂取と運動併用によるベージュ化の相乗的な増幅作用に乳酸の関与を見出し16)、さらに運動しなくても乳酸の経口摂取のみで活性酸素をセカンドメッセンジャーとしてベージュ化が誘導されることを初めて明らかにした25)。この成果から新しい視点で乳酸を捉え、運動しなくても運動と同様の効果が得られる「運動代替食品因子」としての有効利用の方向性を提示した。なお、アミノ酸混合物やクルクミン、大豆タンパク質と運動の併用による効果の増幅作用からこれらの食品因子は「運動補完食品因子」として考えられる。これらの内容は依頼総説としてまとめ26)、運動時に使用して運動効果の代替・補完が期待できるサプリメントの視点でさらに研究を進めている。
おわりに
未熟だった私に食品栄養学の楽しさも含めてご指導いただいた吉田昭先生(故人、名古屋大学)と青山頼孝先生(名古屋大学)、化学の視点を持つことの重要性からご指導いただき、本学会へと導いていただいた川岸舜朗先生(故人、名古屋大学)、その後を引き継いで食品機能研究へと導いていただいた大澤俊彦先生(名古屋大学)に心より深謝申し上げます。本研究の多くは、現所属の中部大学において行われたものです。これまでに大変多くの学生をはじめとした研究室ならびに学外共同研究者の皆様が一緒に歩み、支えてくださいました。この場をお借りしてご関係の皆様に心より感謝申し上げます。
文 献
1) FEBS Lett. 449: 179 (1999).
2) Arch. Biochem. Biophys. 368: 361 (1999).
3) Biochem. Biophys. Res. Commun. 316: 149 (2004).
4) J. Nutr. 133: 2125 (2003).
5) J. Nutr. 140: 527 (2010).
6) PLoS One 10: e0126157 (2015).
7) Biochem. Biophys. Res. Commun. 435: 165 (2013).
8) Mol. Nutr. Food Res. 62: 1700731 (2018).
9) Biol. Pharm. Bull. 40: 1515 (2017).
10) Food Funct. 9: 705 (2018).
11) J. Nutr Sci. Vitaminol. 69: 99 (2023).
以降はPDFを参照ください。