日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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受賞講演
[奨励賞]食の安全性における生物的・化学的リスク因子に関する評価とその制御に関する研究
*島村 裕子
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p. 2-

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抄録

【講演者の紹介】

 島村 裕子(しまむら ゆうこ):静岡県立大学 食品栄養科学部 食品衛生学研究室・助教

 略歴:2007年 お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科 博士後期課程 修了

    同年 同大学 人間文化創成科学研究科研究院・研究員

    2008年 同大学 生活環境教育研究センター・研究機関研究員

    2011年 より現職

 近年,科学技術の発展や食品流通の広域化・国際化に伴い,食の安全性に関する多くの課題が生じている.したがって,食の安全を守り,リスクを最小限に抑えるためには,科学的根拠に基づく制御法の確立が必要である.そこで,本研究では,食の安全を脅かす食中毒菌などの「生物的リスク因子」および化学物質などの「化学的リスク因子」が健康に及ぼす影響を評価し,それらの影響を低減させることを目的とした.本講演では,「生物的リスク因子」として,ヒトの常在菌で,食中毒菌起因菌である黄色ブドウ球菌の菌体外代謝物の毒性発現およびその制御,また,ブドウ球菌毒素と「化学的リスク因子」として,変異・発がん物質であるアクリルアミドの複合暴露が宿主細胞に及ぼす影響について紹介する.

1. ブドウ球菌毒素の毒性発現に対する食品成分の影響

 黄色ブドウ球菌が増殖する際に産生するタンパク質毒素であるエンテロトキシンA (staphylococcal enterotoxin A;SEA) は,毒素型食中毒,アトピー性皮膚炎,副鼻腔炎などの発症または難治化にも関与することから,その毒性発現の制御法が求められている.生体内で様々な生理機能を示すことが知られるポリフェノールは,タンパク質と相互作用しやすいことから,SEAの毒素活性を抑制できる可能性があると考え,SEAと緑茶に含まれるポリフェノール (カテキン類) の相互作用および毒素活性抑制効果について検討した.カテキン類とSEAとの相互作用についてWestern blotで解析した結果,その強さは,エピガロカテキンガレート (EGCG)>エピカテキンガレート (ECG)≫エピガロカテキン>エピカテキンの順であり,EGCGおよびECGは4ヶ所すべての毒素活性発現部位と相互作用した.表面プラズモン共鳴法を用いた解析において,SEAとEGCGの分子間相互作用が認められたことから,等温滴定型カロリメトリーを用いて,その相互作用様式を検討したところ,EGCGは,SEAの複数の結合サイトと疎水的相互作用することが示唆された.さらに,ドッキングシミュレーション解析の結果,EGCGのガロイル基と毒素活性発現部位 (A-6領域) のY91と相互作用することが予測された 1).また,マウス脾臓細胞にSEAとEGCGを暴露し,マイクロアレイで解析したところ,EGCGは,SEAによって誘導されたTh1細胞の応答および免疫バランスの変動に対して,負のフィードバック調節作用を有することが示唆された 2), 3)

2. 細菌由来膜小胞の毒性発現に対する食品成分および化学物質の影響

 黄色ブドウ球菌を含む病原性細菌は,直径20~200 nmの球状の膜構造体である膜小胞に,毒素などの特定の病原因子を内包して放出する 4).しかしながら,どのような環境下で膜小胞の内包成分が変化するかは明らかになっていない.そこで,膜小胞をターゲットにした食中毒のリスク低減や制御策の確立を目的に,ポリフェノール (EGCGおよびノビレチン) 5),食環境中化学物質 (タバコの煙などに含まれるグリシドール) 6) の共存下で黄色ブドウ球菌 (SEA産生,ヒト手指分離株 7)) を培養し,放出される膜小胞の性状について解析した.各膜小胞の粒子径を比較したところ,ポリフェノールは粒子径に影響を及ぼさなかったが,SEAの内包量および血液凝固作用を示すコアグラーゼなどの黄色ブドウ球菌の病原因子を減少させた.一方,グリシドールでは膜小胞の粒子径が増大し,SEAの内包量および炎症反応を誘導するリポタンパク質などが増加した.ポリフェノール共存下で黄色ブドウ球菌を培養して調製した各膜小胞をヒト表皮角化細胞に添加したところ,炎症関連遺伝子の発現を有意に抑制した.グリシドール共存下で黄色ブドウ球菌を培養して調製した各膜小胞をマウス脾臓細胞に添加したところ,炎症関連遺伝子の発現を増加させた.これらの結果より,食品成分および化学物質は,細菌由来の膜小胞の性状に影響を及ぼし,宿主細胞の炎症誘導能を変動させることが示唆された.

3. ブドウ球菌毒素と化学物質の複合暴露による毒性発現の変動

 食の安全を脅かすリスク因子は単独で存在していないことから,「生物的リスク因子」および「化学的リスク因子」が共存することを想定した評価および制御法が求められている.そこで,ブドウ球菌毒素 (SEA) の存在下における,変異・発がん物質であるアクリルアミド (AA) の毒性の変動について検討した 8).マウス脾臓細胞にSEAとAAを複合暴露し,コメットアッセイを用いて遺伝毒性を評価したところ,AA単独と比較して,SEAとの複合暴露によりDNA損傷性が相乗的に増強した.また,AA存在下で黄色ブドウ球菌を培養したところ,黄色ブドウ球菌単独と比較して,病原因子であるバイオフィルム形成量およびSEA産生量が有意に増加した.これらの結果より,黄色ブドウ球菌およびその毒素存在下では,化学物質単独時とは異なる毒性発現機構が存在することが示唆された.

まとめと今後の展望

 細菌由来の膜小胞は,食環境中における存在が確認されているが,それらの機能のほとんどが未解明である.今後,様々な食品成分および化学物質の存在下における膜小胞の性状を解析することで,膜小胞の機能を明らかにし,それら知見に基づいた応用に繋げていきたい.また,本研究では,ブドウ球菌毒素存在下で,毒性が変動する化学物質が存在することを初めて明らかにした.この結果は,生物的リスク因子および化学的リスク因子の単独の毒性評価では,生体を反映した真の毒性評価には不十分であることを示唆しており,今後も両者が共存した際の影響について検討し,これまで見えていなかった複合暴露による生体影響を明らかにしていきたい.将来的には,本研究で得られた知見をもとに,細胞レベルだけでなく生体レベルでの臓器への影響も検討し,毒性制御への応用を目指したいと考えている.

謝辞

 研究の道に進むきっかけと多大なるご支援をいただいた阿部誠先生 (学習院女子大学),文系学部出身の私を快く研究室に受け入れてくださり,始終温かく熱心なご指導を賜り,研究者として育ててくださった村田容常先生 (お茶の水女子大学,現 東京農業大学) に心より感謝申し上げます.また,研究の遂行にあたり,多大なるご尽力およびご助言いただきました学内外の諸先生方に深く御礼申し上げます.本研究は,静岡県立大学食品衛生学研究室で行われたものです.いつも親身にご指導くださる増田修一先生 (静岡県立大学),一緒に実験に取り組んでくださった学生の皆様に心より感謝申し上げます.

参考文献

1) Shimamura, Y. et al., Molecules, 23(5), 1125 (2018).

2) Shimamura, Y. et al., Molecules, 25(8), 1867 (2020).

3) Shimamura, Y. et al., Toxins, 13(9), 609 (2021).

4) Yamanashi, Y., Shimamura, Y. et al., Microorganisms, 10(3), 574 (2022).

5) Oura, Y., Shimamura, Y. et al., Cells, 13(5), 387 (2024).

6) Shimamura, Y. et al., The Microbe, 6, 100273 (2025).

7) Shimamura, Y. et al., Food Sci. Technol. Res., 14, 513–518 (2008).

8) Shimamura Y, et al., Toxicol. Rep., 9, 876–882 (2022).

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