日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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受賞講演
[技術賞]RTDコーヒー飲料製造への実用化に向けた水蒸気アロマ抽出技術の開発
*畠山 慎一郎秋山 正行河口 俊義藤田 篤茂山口 拓也吉原 大翔高橋 加奈武田 安弘宮地 一裕小泉 玲子丸屋 美樹北村 豊粉川 美踏
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抄録

【講演者の紹介】

 畠山 慎一郎(はたけやま しんいちろう) 森永乳業株式会社 食品開発研究所 主任研究員

 略歴:2008年 千葉大学自然科学研究科修士課程修了/同年 森永乳業株式会社入社 神戸工場 製造部/2012年 森永乳業株式会社 食品開発研究所 飲料研究室、現在に至る。2024年 筑波大学 課程修了 博士(農学)。

 受賞歴:2017年 日本食品科学工学会 第13回 若手の会 ポスター発表企業賞

1.はじめに

 本研究はコーヒーの抽出方法に関わる技術検討であり、コーヒー本来の香りを活かした飲料製品に展開することを目指し、森永乳業株式会社と筑波大学で共同開発した。

 コーヒーには800を超える揮発性成分が報告されている1)。風味面で差別化されたコーヒー飲料製品の開発には、揮発性成分の抽出技術が重要であると考えられる。従来、広く実施されている温水によるコーヒーの抽出に加え、本技術検討では、コーヒーの粉末に対して水蒸気蒸留を行うことで得られる凝縮液(水蒸気アロマ)を、コーヒー飲料の工業的製造へ応用することを目指した。水蒸気蒸留は、他の抽出技術2), 3), 4)と比較して工程、設備がシンプルであり、抽出に要する時間が短く3)、抽出に溶剤を使わず水(水蒸気)のみを用いるため環境負荷は小さく、食品工場へ導入する上では優位性があると考えられる。様々な条件項目がある中で、予備検討において風味の変化に及ぼす影響が比較的大きいと判断した凝縮(冷却)温度に着目し、水蒸気蒸留における異なる凝縮温度が、水蒸気アロマの揮発性成分に及ぼす影響を明らかにするために、gas chromatography-mass spectrometry (GC-MS)分析に取り組んだ。さらに、異なる凝縮温度で得られた水蒸気アロマがミルクコーヒーの風味特性に及ぼす影響を明らかにするために、先行研究5)にて開発した消費者のためのミルクコーヒーの評価用語を用いた官能評価(check-all-that-apply(CATA)法)に取り組んだ 6)

2.水蒸気蒸留における異なる凝縮温度が水蒸気アロマの揮発性成分に及ぼす影響

 焙煎度(L値)18.5のエチオピア産コーヒー豆をコーヒーミルで粉砕し、得られたコーヒー粉末を約10 L容量のカラム型コーヒー抽出機に充填した。続いて、コーヒー抽出機に水蒸気を注入し、水蒸気蒸留を実施した。その際、冷却器の冷媒温度を5、50、90℃に設定することで、3種類の水蒸気アロマを得た(A1、A2、A3)。得られた3種類の水蒸気アロマそれぞれについて、ヘッドスペースの揮発性成分をGC-MSで分析した結果、65の揮発性成分が同定された。各揮発性成分のピークエリア面積値には、  1)凝縮温度が低い程、成分量が減少する成分、2)凝縮温度が低い程、成分量が増加する成分、   3)50℃で高い成分量を示す成分、4)凝縮温度によって成分量が変化しない成分、の4パターンの温度依存が認められた。水蒸気アロマ間のピークエリア面積値に有意差が認められた46成分を対象とした主成分分析の結果、凝縮温度が異なる各水蒸気アロマの揮発性成分プロファイルの特徴が明らかとなった。

3.凝縮温度が異なる水蒸気アロマが、ミルクコーヒーの風味特徴に及ぼす影響

 3種類の水蒸気アロマ(A1、A2、A3)、成分無調整牛乳、砂糖、水蒸気蒸留前のコーヒー粉末から温水抽出によって得られたコーヒー抽出液(Ex1)、及び水蒸気蒸留後のコーヒー粉末から温水抽出によって得られたコーヒー抽出液(Ex2)を組み合わせて、水蒸気アロマを使用しないミルクコーヒー2品(成分無調整牛乳+砂糖+Ex1またはEx2)、水蒸気アロマを使用したミルクコーヒー3品(成分無調整牛乳+砂糖+Ex2+A1、A2、またはA3)、計5品のミルクコーヒーサンプルを作製した。訓練されていない消費者パネル(男性35名;女性31名、24~47歳)で、ミルクコーヒーのための評価用語5)を選択肢に応用したCATA法により、各ミルクコーヒーサンプルの官能特性を評価した。

 その結果、水蒸気アロマを用いたミルクコーヒーサンプル3品において、「たばこ」「土」「炭」「焦げ」などのコーヒーに特徴的な風味特性が強いと評価された。また、3品の中でも、凝縮温度が低い方が、コーヒーの風味特徴が強い可能性が示唆された。水蒸気アロマを用いないミルクコーヒーサンプル2品においては、コーヒーの風味特性が比較的弱く、「ミルク」や「まろやか」等の風味特性が強いと評価された。これらの結果より、水蒸気アロマを用いることでコーヒーの風味特性が強くなることが示され、さらに水蒸気蒸留時の凝縮温度が、ミルクコーヒーの風味特性に影響を与えることが示された。

4.まとめと今後の展望

 本研究の結果より、水蒸気アロマ抽出技術と従来の温水抽出を組み合わせることで、同じ出発原料(コーヒー原料)から、コーヒー本来の風味をより強く引き出せることが示された。また、水蒸気蒸留時の凝縮温度を変えることで、揮発性成分プロファイルが異なる水蒸気アロマが得られることが示された。それらをミルクコーヒーの製品開発に応用することで、コーヒーの多様な風味特徴を引き出せることが、消費者の認識に基づいて示された。このことは、従来よりも製品設計の幅が広がることを意味すると共に、水蒸気アロマを使用することで、コーヒー原料そのものが持つ本来の香りを活かしたミルクコーヒー飲料を製造できることが示された。また、コーヒーの風味を従来よりも強く引き出すことで、ミルクコーヒー飲料の製造のために使用するコーヒー原料の量を低減し、原料コストの削減が見込まれる。同時に、コーヒー抽出残渣の発生量が低減することで、環境負荷低減への貢献も期待される。本技術を製品開発へ応用することで、消費者に対してより高付加価値な商品を提案することができると考える。

 以上の研究成果に基づいて、森永乳業では、チルドカップミルクコーヒー飲料市場でシェアNo.1の「マウントレーニア」製品の製造に応用するため、自社工場に水蒸気アロマ抽出の実製造設備を導入した。2022年秋より主要製品の一部で実用化を開始し、現在までに4品で実用化している(マウントレーニアエスプレッソ、ノンシュガー、ノンスイート、及びディープエスプレッソ)。本技術は、今後も マウントレーニア製品全体に幅広く活用していくことで、環境に配慮しながら嗜好性が高く差別化された製品を提案することを通じて、消費者の豊かな暮らしに貢献していきたいと考えている。

参考文献

1) Flament, I., & Bessière-Thomas, Y. (2002). Coffee Flavor Chemistry, pp. 53–74.

2) Beverly et al., Energy Procedia, 161, 157-164, 2019

3) Imura, N., & Matsuda, O. (1992). Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi, 39(6), 531-535.

4) Sarrazin et al., Food Chemistry, 70(1), 99-106, 2000

5) Hatakeyama et al., Food Science and Technology Research, 29(3), 197-209, 2023

6) Hatakeyama et al., Journal of Food Science, 89, 3330-3346, 2024

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