【目的】コク味と脂味および旨味は,食品のおいしさとの関連で注目されている味である.これらの味には,関与する味覚受容体が推定されている.本報告では,コク味を対象にCaSR(カルシウム感知受容体)が果たす役割を考察した.【方法】こくは「よく煮込まれた食品や長期熟成された食品がもたらす特有の味」とされているが,こくは日常用語であり,その意味は広くて曖昧である.つまり,専門的考察の対象には不適切である.そこで, 専門用語としてコク味を設定し,「認識形成にCaSRが関与する部分のこく」と定義することにより,その意味を明確にした.【結果】従来のこく(コク)の捉え方には,①CaSRの関与を具体的に説明しない,②こくが味の一種であることに否定的である,③こくに快が伴う理由を明示しない,などの問題が指摘できた.これらの問題点を見直して,コク味など3種の味の認識形成におけるCaSRが果たす役割を表した模式図を作成した.ここでは,コク味はCaSRにより変換されたカルシウム味情報が食品に由来する嗅覚情報や基本味情報および表在感覚情報と脳内で統合された認識の味とみなしている.すなわち,コク味は味の一種(統合味)である.このことを理解しないので,コク味の認識形成におけるCaSRの役割の理解が妨げられてきた.次に,模式図の作成の過程で,CaSRが与える単独味の存在が看過されていることに気付いた.この味は,カルシウム味と呼ばれる.カルシウム味は,基本味といえなくても,味の一種(味覚性味)とはいえる.カルシウム味は朧気な味と推察した.また,カルシウム味は快とはいえない味と推定できるので,コク味の快は複数の感覚情報による統合過程で発現すると説明できる.最後に,代表的コク味寄与物質であるグルタチオンは,酸味とカルシウム味の混合味を呈する.この味はグルタチオン味と仮称した.CaSRだけを活性化するコク味寄与物質は知られていない.