接着剤は生活のあらゆる場面で使用されており,これまでに産業発展のみならず,省力化,軽量化などの加工・運用コスト面,言い換えれば「使用前・使用中」の段階でSustainable Development Goals (SDGs)などにも貢献してきた。近年,従来からの要求に加え,「使用後」,例えば簡単に接着を解除することで被着体の再利用,再使用を促進可能で省資源化に貢献でき,SDGs における「12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に関連する用途が望まれるようになってきた。また,ニーズの高度化に伴い,接着力を維持できるだけでなく,必要な時に,必要な力で接着でき,使用後は容易に脱着できるような「一時的な」接着用途が製造分野をはじめ住宅1)・バイオ・美容2)などの様々な分野で期待される一方で,長期使用を目的とした用途での需要も高まっている3)。このような接着部を容易に分離できる接着剤は解体性接着剤(もしくは易解体性接着剤)と呼ばれ4),20 年ほど前から精力的に研究が行われている材料であり,ホットメルト型接着剤や光硬化型ダイシングテープなどの実用例も存在し,これまでに本誌にもいくつかの研究例が紹介されている5)。解体性接着剤は①接着面積の減少,②接着剤の(体積・硬さなどの)物性変化,③被着体との界面相互作用の減少のいずれかを種々の外部刺激によって引き起こすことで接 着性を低下させる,とされている。外部刺激としては熱や溶媒,電気や電磁波など様々な方法が報告されているが,なかでも,光をトリガーとすることで,水中や金属材料といった熱伝導性に問題のある環境でも使用でき,非接触で高い空間的・時間的分解能で照射が期待できる。また,通 常は人工的な光源を用いることから,均一化や大面積化,局面対応なども容易であることに加え,強度や波長,偏光条件など,様々なパラメーターを電子的に容易に制御できるという利点も有する。また,被着体への光照射が必要であることから,透明な被着体の接合物を除いて,接着界面への光照射は困難な場合が多く,また短波長の電磁波の使用には装置やコスト面,照射条件等に工夫が必要であるが,比較的温和な条件下で進行するため,生体を対象とする分野などにも応用可能である。このような特徴を有することから硬化のみならず,解体性の制御手段として光を用いる 光解体性接着剤の研究が,近年精力的に行われている6)。光解体性接着剤は物理変化を誘起する材料と化学変化を誘起する材料に大別される。物理的変化を誘起する系では光は他の刺激を誘起するためのトリガーであり,これまでに熱などによって誘起されている変化を光によって間接的に誘起する手法であり,電磁波というカテゴリではあるが,電磁誘導加熱を利用したものが一部実用化された例がある。一方,化学変化では基本的に光反応を誘起し,次いで化学変化や物性変化を誘起する。これらは厳密に分類されるものではなく,中間に位置するような例も存在する。光化学反応を利用する材料には,適切な波長の光を吸収する光反応性分子が含まれており,物理的もしくは化学的特性変化によって接着性の変化を誘起する。解体性接着剤に用いられる代表的な光反応は,不可逆的光反応と可逆的分子間光反応,そして可逆的光異性化反応,いわゆるフォトクロミズムの3 つのグループに分類される。不可逆的光反応では,二量化や脱離反応によって分子構造が変化して光活性部位が移動するため,大きな変形を伴う。さらに,得られた化合物は熱的に安定であるため,光反応を段階的に測定することができ,分光法を用いて容易に追跡することができるという特徴がある。一方,フォトクロミック反応では,光を照射することで可逆的に構造が変化し,その結果,色や極性,熱的性質などの物理的特性が変化する。光異性化の経路としては,trans-cis 異性化,エレクトロサイクリック反応などがある。光条件の変化による巨視的な解体挙動を評価するために,さまざまな光反応や光反応性媒体が研究されてきた。本記事では光化学反応を利用した光解体性接着剤について紹介する。 合わせて,我々が取り組んで来た,フォトクロミック液晶高分子複合体による光解体性接着剤についても述べる。