本研究では、カナダの雇用上の宗教差別事案において適用された合理的配慮の概念が、どのような経緯で障害差別事案に援用されたのか、またその援用当初において「合理的な」対応として雇用主に何が求められたのかを宗教差別事案と比較しながら明らかにした。宗教差別事案から導き出された、差別意図がなくとも結果的に差別効果を生んでいるものを違法な差別と扱う論理は、1981年改正オンタリオ州人権法の条項に盛り込まれた。そして同条項を参考にして策定された障害差別の条項は、同州の審決会において障害者に対する合理的配慮義務を内含していると解釈された。宗教差別事案では雇用主において過度な負担がないことが合理的配慮における合理性の基準であったのに対し、障害差別事案では過度な負担がないことのほか、職務遂行能力の判定プロセスにおける職務の非本質部分の無考慮、個別性、正確な障害状況究明に向けた手段の適切性が、合理性の基準であった。