アロマテラピーで使用される精油には,抗菌作用,抗炎症作用,抗酸化作用を持つものがあると言われているが,その科学的な検証は十分とは言えない。そこで本研究ではin vitroの炎症皮膚細胞モデルを用い,46種類の精油から抗炎症剤候補の選抜を行った。その際,ヒト表皮角化細胞HaCaTに炎症を促すサイトカインを添加し,炎症性ケモカインThymus and activation-regulated chemokine(TARC/CCL17)を発現誘導させる系を用いた。ELISA法で検証した結果,カモマイル・ジャーマンとパチュリ等7種の精油にTARC誘導阻害能が見られた。同時に,この炎症皮膚細胞モデルにおいて,炎症や皮膚の恒常性に関与する遺伝子を調べたところ,TARCと同様,他の複数の遺伝子も発現が変動することがわかった。そこで,抗炎症剤候補として選抜されたパチュリについて,炎症や皮膚の恒常性維持に関与する遺伝子発現への影響を検証した。その結果,パチュリは炎症性ケモカインのTARC, RANTES, MDCの発現誘導を抑制し,ケモカイン以外の遺伝子であるMLN64やMMP2の発現にも影響があることがわかった。以上のことから,精油にはTARCだけではなく他の炎症性ケモカインの抑制効果があり,さらにそれ以外の遺伝子発現に影響をもたらすことが示唆された。また,細胞内への精油の導入を高める目的でリポソームへのパチュリの封入を試みたが,本研究で行った方法では,エタノールを溶媒にした場合に比べ,パチュリの効果は顕著ではなかった。