アロマテラピー学雑誌
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ISSN-L : 2189-5147
22 巻, 2 号
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原著論文
  • 田中 千智, 岡田 彩希, 根建 美也子, 野田 信三, 安藤 直子
    2021 年 22 巻 2 号 p. 24-36
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/06/25
    ジャーナル フリー

    アロマテラピーで使用される精油には,抗菌作用,抗炎症作用,抗酸化作用を持つものがあると言われているが,その科学的な検証は十分とは言えない。そこで本研究ではin vitroの炎症皮膚細胞モデルを用い,46種類の精油から抗炎症剤候補の選抜を行った。その際,ヒト表皮角化細胞HaCaTに炎症を促すサイトカインを添加し,炎症性ケモカインThymus and activation-regulated chemokine(TARC/CCL17)を発現誘導させる系を用いた。ELISA法で検証した結果,カモマイル・ジャーマンとパチュリ等7種の精油にTARC誘導阻害能が見られた。同時に,この炎症皮膚細胞モデルにおいて,炎症や皮膚の恒常性に関与する遺伝子を調べたところ,TARCと同様,他の複数の遺伝子も発現が変動することがわかった。そこで,抗炎症剤候補として選抜されたパチュリについて,炎症や皮膚の恒常性維持に関与する遺伝子発現への影響を検証した。その結果,パチュリは炎症性ケモカインのTARC, RANTES, MDCの発現誘導を抑制し,ケモカイン以外の遺伝子であるMLN64やMMP2の発現にも影響があることがわかった。以上のことから,精油にはTARCだけではなく他の炎症性ケモカインの抑制効果があり,さらにそれ以外の遺伝子発現に影響をもたらすことが示唆された。また,細胞内への精油の導入を高める目的でリポソームへのパチュリの封入を試みたが,本研究で行った方法では,エタノールを溶媒にした場合に比べ,パチュリの効果は顕著ではなかった。

研究ノート
  • 沢村 正義, 佐藤 彰洋, 芦澤 穂波, 中島 悦子, 石鍋 佳子, 浅野 公人, 東谷 望史
    2021 年 22 巻 2 号 p. 37-46
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/06/25
    ジャーナル フリー

    本研究は,アロマテラピー向けの22種類のキャリアオイルに存在するビタミンEおよびフィトステロール含量を明らかにしたものである。キャリアオイル中のビタミンEの8種類の同族体であるα-, β-, γ-, δ-トコフェロール,α-, β-, γ-, δ-トコトリエノール,およびフィトステロールであるカンペステロール,スチグマステロール,β-シトステロールを選択的イオンモニタリング(SIM)モードを使ったガスクロマトグラフィー-質量分析(GCMS)により分析した。抗酸化能,皮膚の角質化の防止,抗炎症などの機能活性を有しているビタミンEおよびフィトステロールが,多くのキャリアオイルで含量の違いはあるが検出された。22個のオイル試料のうち,トコフェロール含量がもっとも高かったのは有機カレンデュラオイルであり,次いで小麦胚芽オイル,有機アルニカオイルであった。トコトリエノールは13種類のキャリアオイルで検出された。グレープシードオイルは,ビタミンEの8種類の同族体をすべて含有するキャリアオイルであり,また,α-トコトリエノールの含量がもっとも高かった。フィトステロールに関しては,小麦胚芽オイル,ホホバオイル・バージンのみならず,ほとんどのオイルでも顕著に多く含まれていた。本研究の結果から,トリートメントにおけるキャリアオイルの役割は皮膚に対する物理的効果に加えて,ビタミンEおよびフィトステロールによる生理的効果の可能性が示唆された。

事例報告
  • 吉本 隆治, 天満 和人, 田中 敦
    2021 年 22 巻 2 号 p. 17-23
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/06/25
    ジャーナル フリー

    【はじめに】鹿児島県の県木はクスノキであり,これは江戸時代の薩摩藩から続いた樟脳生産と歴史的に関係がある。現在も指宿市開聞でクスノキの一種の芳樟から精油を生産している。芳樟精油は,ラベンダー精油と同様,鎮静作用があるとされるl-リナロールが主成分である。ラベンダー精油を用いたアロマテラピーの芳香療法は,リラックス効果をもたらすことがさまざまな先行研究により示されている。本研究の目的は,芳樟精油を用いた芳香療法の効果について,自律神経機能の面から検討することである。【方法】対象は健常若年女性17名で,方法は椅座位にて安静(5分)・芳香(5分)・芳香後(10分)とし同時に指尖脈波計より脈波を収集した。ティッシュに芳樟精油を1滴(0.05 mL)垂らし嗅ぐ芳香療法とした。解析はTAOS社製のソフトを用い,高周波成分(HF),低周波成分(LF),心拍数(P),心拍変動係数(CVRR),エントロピーを算出した。測定前後で疲労感と芳樟精油の好き嫌いをVisual Analogue Scale(VAS)で,香りの印象をアンケートで聴取した。【結果】芳香条件では安静条件と比較して,副交感神経活動の指標であるHFは有意な増加,交感神経活動の指標であるLF/HFは有意な低下を認め,疲労感VASも有意な疲労感改善を認めた。【結語】芳樟精油の芳香療法を行うと,5分間でHFが増加しLF/HFが低下したことから,芳樟精油は数分で副交感神経系を優位にし,自覚的疲労感を改善する可能性が示された。

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