抄録
石英ガラスにおけるイオンビーム誘起発光が、OH基をはじめとする不純物濃度やイオン種、エネルギーに依ることは知られているものの、イオン照射損傷についての系統的な理解は進んでいない。本研究では、電子的励起に対して核的エネルギー損失の割合が小さい水素イオンビームによる石英ガラスの発光を測定し、イオン照射中の構造変化と試料中に含まれるOH基および注入水素との関連について調べた。実験の結果、OH基濃度が高い場合、酸素欠損型の欠陥に起因するとされる460 nmの発光は、水素イオンのエネルギーが1 MeV を超えるとほとんど起こらなくなることが明らかとなった。このためMeV領域での460 nm発光強度のOH基濃度による差は大きく、逆に入射エネルギーが低くなるとその差は縮まる傾向がある。また、入射エネルギーを下げたKeV領域の水素イオン照射では核的エネルギー損失の割合が増え、わずかのエネルギーの違いでも、照射量依存性は大きく異なることが示された。