抄録
原子力施設にて種々の核反応により生成する放射性核種であるトリチウムは、水と容易に同位体交換することが知られている。そのため、生成したトリチウム水がステンレス配管表面にて吸着し、トリチウムがステンレス中を拡散・透過し系全体に移行し、環境中に放出されることが考えられる。さらに、トリチウムの壊変により放出されるβ線によりトリチウム水の放射線分解が引き起こされ、トリチウム水の金属界面への表面吸着過程に影響を及ぼすことが予想される。トリチウムの安全管理の観点より高線量の放射線照射下における水分子状の水素同位体のステンレス中への移行過程の解明は重要である。そこで、ステンレスとともに重水をガンマ線照射し、重水中のラジカルを電子スピン共鳴法により、試料界面での重水素の化学状態をフーリエ変換赤外分光法により測定し、水中におけるステンレス界面上での水素同位体の存在状態におよぼす放射線影響について明らかにした。