抄録
日本糖尿病学会は「糖尿病治療ガイド2004-2005」および「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」を発行し,その中で糖尿病の治療はヘモグロビンA1c(HbA1c)なら6.5%未満,空腹時血糖値なら130mg/dl未満,食後2時間血糖値なら180mg/dl未満の「良」を目指すべきだとしている。これは米国で行われたDiabetes Control and Complications Trial(DCCT)やKumamoto Studyなどの大規模臨床試験をエビデンスにしている。しかし,この目標は網膜症や腎症など糖尿病に特有の合併症を生じさせないレベルとして設定されたことを忘れてはならない。 一方,糖尿病に特有ではないが,糖尿病がリスクの一つとなっている心血管疾患(心筋梗塞,心不全,脳卒中など)において,高血圧や高脂血症への対策と比べ,高血糖への対策が不十分ではないかとの批判がある。アメリカ糖尿病協会(American Diabetes Association,ADA)が1997年に糖尿病の新しい診断基準を提唱したのもこれと無関係ではない。ADAの新診断基準ではブドウ糖負荷試験(Oral Glucose Tolerance Test,OGTT)を捨て,空腹時血糖値を重視した。心血管疾患との関係では,皮肉にも,ブドウ糖負荷後血糖値が大切だったことがその後の研究(舟形スタディ,DECODEなど)で明らかにされた。しかも,耐糖能障害(Impaired Glucose Tolerance,IGT)の段階から心血管疾患のリスクであることが,再度,強調された。ブドウ糖負荷後血糖値が高いことは日常的には食後高血糖であろう。 IGTを対象に糖尿病の一次予防をライフスタイルの変更や薬物により行おうというマルメ研究やStop-NIDDM研究などで日常的に食後血糖値を下げ,糖尿病に移行しないようにすることは,糖尿病発症を半減するのみならず,心血管疾患を減少することが示されている。 糖尿病治療は昏睡をその挑戦の対象とした第一の時代,網膜症,腎症とした第二の時代を経て,心血管疾患とする第三の時代に入っている。食後高血糖が動脈硬化症を引き起こすメカニズムに関する基礎研究および診断や治療に関する臨床研究が今まさに行われている。