糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
セッションID: DS-3-1
会議情報

シンポジウム:インスリンシグナルと動脈硬化症の関連性
インスリンとフォスフォリピッド
*笹岡 利安
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
インスリンの代謝作用の発現にはPI3キナーゼが中心的な役割を担う。PI3キナーゼにより産生されたフォスフォリピッドPI(3,4,5)P3はリピッドセカンドメッセンジャーとしてPI3キナーゼの標的分子であるAktやatypical PKCを活性化する。PI(3,4,5)P3はリピッドホスファターゼSHIP2の5’-ホスファターゼ活性を介してPI(3,4)P2に、また、PTENの3’-ホスファターゼ活性によりPI(4,5)P2に変換され、骨格筋や脂肪細胞などのインスリン標的細胞での代謝シグナルは生理的に負に調節されている。日本人2型糖尿病患者と健常者の遺伝子多型の解析により、PTENのN端の非翻訳領域に存在するSNPを持つと、PTENの発現が高まりインスリン抵抗性が惹起される可能性が考えられる。SHIP2では5’-ホスファターゼ活性部位に健常者で多いSNPを認め、本SNPによりSHIP2の5’-ホスファターゼ活性が低下し、インスリン感受性を高める可能性が示唆される。また、SHIP2のチロシンリン酸化部位近傍のSNPでは、インスリンによるSHIP2のチロシンリン酸化が低下し、SHIP2のShcとの結合が低下することによりShc/Grb2を介したMAPキナーゼ活性が亢進し、動脈硬化の進展に関与することが考えられる。イギリス人とフランス人を対象としたSHIP2の遺伝子検索においても、SHIP2の遺伝子多型がメタボリックシンドローム特に高血圧との関連が深いことが報告されている。そこで、動脈硬化の発症と進展に重要な役割を担う大血管平滑筋でのPDGF作用を検討すると、SHIP2とPTENは共にPI(3,4,5)P3を代謝しAkt活性を低下することによりPDGFの抗アポトーシス作用を低下させた。さらにSHIP2はShc/Grb2結合を競合的に阻害することによりMAPキナーゼの活性低下を介してPDGFのDNA合成作用を抑制した。このことから、これらリピッドホスファターゼはPDGFによる細胞増殖作用の負の制御因子としても働くことが考えられる。インスリン抵抗性病態では高インスリン血症が認められることから、大血管平滑筋細胞をインスリンで長期処置すると、SHIP2の発現が低下しPDGFによる細胞増殖作用の亢進を認めた。以上より、PI3キナーゼ産物PI(3,4,5)P3を代謝するリピッドホスファターゼは、その発現亢進によりインスリン標的細胞でのインスリン抵抗性の発現に深く関わるとともに、大血管平滑筋細胞ではインスリン抵抗性病態によりその発現が低下することで細胞増殖が亢進し、動脈硬化の進展に関与する可能性が考えられることから、インスリン抵抗性が動脈硬化を惹起する新たなインスリンシグナルの分子メカニズムとしてリピッドホスファターゼの関与が示唆される。
著者関連情報
© 2005 日本糖尿病学会
前の記事 次の記事
feedback
Top