抄録
2型糖尿病の病態にはインスリン分泌障害とインスリン抵抗性があり、これには多くの遺伝子が関与する遺伝因子と肥満・運動不足などの環境因子が関わる。インスリン分泌障害が主である患者もいれば、インスリン抵抗性が強い患者もいるが、インスリン分泌障害が全くない患者は少なくともわが国ではいないといってよい。2型糖尿病の病初期では、グルコースに対する初期分泌反応(追加分泌)が障害されているのみで基礎分泌は保たれている。したがって、血糖値レベルは全体としてはそれほど悪くないのであるが、追加分泌障害のために食後の高血糖が目立つことになる。このステージでの追加分泌の障害とは、食後のインスリン分泌反応の遅延と言ったほうが正確である。決して絶対量が低下しているわけではない。 この時の治療法としては、遅延しているインスリン分泌を迅速にする速効性インスリン分泌促進薬(ナテグリニドなど)、あるいは、遅延しているインスリン分泌に合わせるかのごとく緩徐に糖を消化管から吸収させるαグルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース、アカルボース)がある。これらによって食後高血糖が是正されると、ベースラインの血糖値もある程度低下してくることが多い。これは食後高血糖の是正により糖毒性が改善したためと理解してよい。食後高血糖がみられる患者では動脈硬化が進みやすいというデータもあることから、食後高血糖の是正は、動脈硬化の進展防止の点でもメリットが期待される。また、肥満、運動不足などによりインスリン抵抗性がうかがわれる患者では、メトホルミンあるいはピオグリタゾンの投与も考慮すべきだろう。 糖尿病患者の治療では、高血糖の是正とともに体重増加がしばしばみられる。これは特にSU薬ではしばしば経験される。数ヶ月-1年の後には血糖コントロールが悪化することは目にみえているし、もっと長い目では動脈硬化の進行が早まることが問題となる。このように体重増加は実に悩ましい問題である。インスリン分泌促進薬の中でも、作用時間の短いナテグリニドにはSU薬と違って体重増加を来たしにくいというメリットもあると思われる。