抄録
食後高血糖の概念は、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)開発の歴史の中で、主に日本で形成された。その後、その病的意義に関する解明が遅れたため、一時影が薄れたが、1999年富永らにより発表された舟形町スタディや、ヨーロッパのDECODE studyが糖尿病での総死亡や心血管死亡率に対して、食後血糖値の方がFPGよりも強く影響することを報告し、その重要性が再認識された。2002_から_2004年にかけて、日米欧で続々と、食後血糖値は135~140mg/dl以下が望ましいとのかなり厳しい勧告が発表されるに至っている。食後高血糖のようなspike状の短時間のグルコースの増大自体は、糖尿病合併症の最大の原因の一つであるグリケーション(糖化)を促進するとは考え難い。しかし近年、糖化力や酸化力がグルコースの数百倍以上あるα-メチルグリオキサールや3-デオキシグルコソンなどが、食後にグルコースから容易に変換されて増加することが判明した。糖酸化された蛋白をマクロファージなどが除去する際にはサイトカイン他の炎症性物質の放出がみられる。食後の酸化ストレスの増強も誘発し得る。食後高血糖はこのように極めて重要である。しかし、血糖の“gold standard”として用いられてきたHbA1Cが、この食後高血糖を十分に把握できないことが問題化してきた。DECODE studyでは、HbA1Cの2型糖尿病の死亡予知力が負荷後2時間値に劣ることが示された。食後血糖との相関が悪い原因としては、糖化の機序自体からくる理由の他に、脱糖化に関係する酵素量に遺伝的な個人差があることなどが判明しつつある。このため、食後血糖値のモニターも必要な状況となってきた。ただし、血糖自己測定を導入するに当っては、食後血糖値の定義や、それに影響を与える食事に関する知識などが必要である。変動の激しい血糖値の特性を知り、HbA1Cやグリコアルブミン、1,5AGといった血糖指標との相関や解離を解釈できる技術力(ソフトウェア)を養うことが重要となる。食後高血糖を抑制するための食事療法、α-GIとグリニド系薬剤の使い分けとそれらの評価法,SU薬やピオグリタゾン,ビグアナイド系薬剤などとの併用方法,超速効型インスリンの意義や問題点,各種薬剤の体質改善効果が食後高血糖に及ぼす影響、などについて、最新の臨床試験の結果を織り込みながら実地診療現場に即して解説したい。