抄録
糖尿病発症初期よりrenin-angiotensin (RA) 系抑制薬を投与するか蛋白制限食を与えておくと、腎症の発症を予防し得ることは実験モデルでBrenner一派によって既に明確にされている。最近、臨床レベルでも (1)糖尿病早期腎症期にACE阻害薬を投与すれば顕性腎症期への移行を阻止し得ること。(2)顕性腎症期にACE阻害薬を投与すれば、末期腎不全への進行を抑制し得ること。更に、(3)腎症未発症の糖尿病にACE阻害薬を投与すれば経年的な微量レベルの尿中アルブミン排泄量の増加が起こらないこと、が明らかにされた。angiotensin 受容体拮抗薬ARBにもACE阻害薬同様の腎保護作用の存在することが大規模臨床試験で証明された。以上の実験的および臨床的evidenceを総合して考えれば、RA系抑制薬には腎症を阻止し得る作用のあることが、少なくとも糖尿病性腎症では決定的と考えられる。糖尿病性腎症例に膵移植を実施し血糖を完全に正常化し、その後繰り返し腎生検した成績によると、5年後では不十分だが10年後には、肥厚した糸球体基底膜や増大したメサンジウム体積が正常化している。この成績は、これまでは不可逆性の進行過程とされて来た慢性腎不全が可逆性である可能性を示唆する。また、Remuzziらは、RA系抑制薬を平均3年間長期連続投与すれば、蛋白尿が完全に消失するのみならず糸球体濾過量は減少傾向が停止し、回復に転じると報告している。このように、慢性腎不全治療は point of no return の概念を返上し、完全寛解を目指すべき時代に入ったことを感じさせる。最近の Pittsburg研究などから、糖尿病から末期腎不全に陥る累積発症率は着実に抑制されていることが明らかにされた。したがって、糖尿病性腎症に基づいた末期腎不全の増加は、主として糖尿病人口の増加に起因するのであろうか。それにしても、 Steno 2 研究でも R A系抑制薬が早期腎症を回復させる強力な因子であることが証明された。