抄録
糖尿病患者にとっては、糖尿病であることや治療をすること自体がストレスになり、療養が妨げられることもある。糖尿病は一生涯自己管理していく必要があり、それが継続できるように心のケアをしていくことの重要性が認識されるようになってきた。2001年に、糖尿病患者への心理的サポートを改善することを目的とした世界的プロジェクトDAWN (Diabetes Attitudes, Wishes and Needs)が発足した。2003年には日本独自で無作為に抽出した日本人糖尿病患者391例に対して、DAWN J調査を実施している。この結果、現時点での心理状態は比較的良好と考えられたが、合併症や家族への責任など将来への不安、低血糖への不安、および経済的な不安などいくつかの心理的不安を抱きながら生活している実態が明らかとなった。糖尿病患者の治療目標は、良好な血糖コントロールを維持し、長期的な合併症を予防するとともに、ウェルビーイングやQOLをよい状態に保つことにあるが、必ずしも治療目標を達成できていないことも事実である。これを達成するために、インスリン治療は極めて重要な道具であるが、医師の側、患者の側それぞれに誤解や抵抗があり、必ずしも適当な時期に導入されていないという結果も得られている。その理由を明らかにしていくことは糖尿病の治療効果をあげるために重要な意義を持つものと考えられる。演者らはこれを明らかにすることを目的とした質問表の作成を試み、少人数でのパイロットスタディを行った。従来あまり調査されていなかった医師側の態度としては、(1)
インスリン治療の利益についての認識、(2)インスリン治療実施に関する困難度の認識について、インスリン治療に積極的な医師とそうでない医師との間に差が見られた。とくに低血糖への対処、インスリン治療を説明するスタッフの存在の問題が大きいようであった。患者側要素としては、ふたつの要素が問題となり、ひとつはインスリンへのイメージ-糖尿病が重篤であることを意味する-であり、今ひとつは注射することへの抵抗である。これらへの対応とより使いやすい道具の開発が望まれるようである。本イブニングセミナーでは、患者の心理的側面からのアプローチについて実例をあげながら紹介するとともに、インスリン導入時の障害についての最新知見を紹介したい。