抄録
肥満症は糖尿病発症の最も重要な要因であり、また、肥満を有する糖尿病例では体重是正が治療ターゲットの一つとして取り上げられる重要な身体所見である。近年は脂肪細胞が糖・脂質代謝の調節因子として重要な生理活性物質を合成分泌することが広く認められ、アディポサイトカインの臨床的な意義や作用機序の解明が進められている。また、脂肪萎縮性糖尿病に対するレプチン投与など、特殊な糖尿病に対する治療応用が考案されている。このように進歩した研究の中で臨床の場では糖代謝の是正に対する体重のコントロールが大きな役割を果たし、その実現が病態の改善をもたらすことが多く経験される。ここでは「肥満」が特殊な管理を要する項目の一つに挙げられたが、このことは日常臨床の場で体重減少の意義を痛切に感じながら、望ましい体重是正が困難である例を多く経験することによるものと考えられる。ここでは以下の3症例を挙げてその問題点を整理して討議したい。症例1:OK.79歳、女性。2型糖尿病、単純肥満で血糖が上昇したため入院治療を行った。高齢者肥満に対する食事療法として低カロリー食を行い、短期入院で退院が可能であった。症例2:KA.28歳、女性。1型糖尿病に多嚢胞性卵巣(Polycystic ovary; PCO)を合併した症例。高度の肥満を合併し、食事療法が困難であり、また、インスリン強化療法によってもコントロールを得ることが困難であった。症例3:MT.18歳、男性。小児肥満を指摘されていたが、13歳時に糖尿病と診断された。食事療法のみでコントロール良好の時期もあったが、体重の増加が著しく、また、最近では食事療法の実践が困難となり、血糖が上昇してきた。以上のように肥満の解消が血糖コントロール対して有効であることが十分に理解されていてもなお、臨床の場では困難な例が少なくなく、これらの3例を挙げて議論したい。