糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: BS-1-4
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シンポジウム:特殊な管理を要する糖尿病治療
糖尿病をもつ高齢者のケア
*相澤 徹
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抄録
I. 応用問題 糖尿病をもつ高齢者の管理は「応用問題」と捉えることができます.糖尿病患者管理の二つの基本原則,1)できるだけ良好な血糖コントロールをめざす,2)糖尿病特有の細小血管症の発症・進展に注意する,に加えて,a)低血糖,b)大血管症(動脈硬化性病変),c)服薬・インスリン注射のコンプライアンス、d)悪性腫瘍を含めた直接糖尿病に関連しない健康問題,e)心理状態も含めたQOL,などに対する配慮が壮年の患者に比べて必要となることが多いからです.基本に加えて多くの付随する問題への継続的な配慮が求められます.II. 個別的対応 前項に述べた問題の有無および軽重は症例によって大きく異なり、かつ一般的に高齢者の心身の健康状態には個人差が大きいので,高齢糖尿病患者では,特に個々の患者に即した個別的な対応が望まれます.III. 非典型的な症状がヒント 高齢者では、高血糖,低血糖,脳血管障害,心筋梗塞,悪性腫瘍,など多くの病態で,臨床症状が非典型的であることが少なくありません.口渇・多飲を訴えない高血糖,無自覚低血糖症,無痛性心筋梗塞,などです.「何となく元気がない」といった微妙な体調の変化の陰に重大な疾患が隠れている場合があるので注意が必要です.III. 数値目標 高齢者の血糖や血圧コントロールをどの程度厳格に行うべきか、は難しい問題です.我々の成績(Katakura et al. Diabetes Care 2003)では、高齢糖尿病患者で、群としてHbA1c 6.8%および血圧136/74mmHg程度が達成されれば、健常な高齢者に近い生命予後が達成でき、血糖コントロールの経年劣化が阻止できること、が示唆されました.この程度の血糖と血圧コントロールが達成された群では、死亡および糖尿病関連イベントの発生に対して、脳血管障害の既往があることと腎障害のあることが、独立した危険因子でした.この群では、高血糖や罹病期間の長いことなどは、もはや死亡および糖尿病関連イベント発症の独立した危険因子ではありませんでした.降圧薬を服用していない低血圧の患者の予後は良好でしたが、降圧薬服用中の患者の低血圧(収縮期血圧125mmHg以下)は脳血管障害の発症頻度を増加させる危険性があることが示唆されました.脳血管障害の既往があって腎障害がある場合、喫煙者では非喫煙者(既喫煙者を含む)に比べて生命予後が明らかに不良でした(3年間で70%が死亡).IV. QOL 糖尿病ケアでは期待される生命予後の範囲で糖尿病に関連した健康障害が出現しない、ということが治療目標ですが、高齢者では「期待される生命予後」が若壮年患者より短いので緩やかな糖尿病管理でも良い、という可能性があります.いたずらに厳格な糖尿病管理を求めることはQOLの劣化につながりかねません.最近の我が国の研究(Araki et al. J Am Geriatr Soc 2004)では、高齢糖尿病患者で"low well being (爽快さの低下)"や"symptom burden (病気の症状を負担に感じていること)"のあることは、脳血管障害を発症する独立した危険因子であることが明らかになりました.V. まとめ 高齢糖尿病患者のケアでは、低血糖に充分注意して血糖管理を行うこと、過度の降圧を避けつつ血圧をコントロールすること、糖尿病管理が患者の心理的負担にならないように注意すること、などが重要です.病歴が長い患者では、高齢になる以前、つまり若壮年期の糖尿病管理の良悪や喫煙状況が高齢になってからの予後を決定する、といっても過言ではないでしょう.高齢糖尿病患者には、これまでの病歴と現在の糖尿病を含めた心身の健康状態に基づいて予後予測を立てて、考えられる余命の中で優しさをこめた糖尿病管理が求められます.
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© 2005 日本糖尿病学会
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