糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: DS-2-1
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シンポジウム:糖尿病血管合併症の分子機構と新たな治療法の開発を目指して
網膜症-1:糖尿病網膜症におけるAGEの関与とPEDFによるその阻止
*山岸 昌一
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抄録

糖尿病網膜症の主座となる細小血管は、血管の内側をおおう内皮細胞とそれを取り囲む周皮細胞から構成されている。我々は以前に、(1)網膜周皮細胞が内皮細胞の増殖を制御するのみならずプロスタサイクリン産生能を保持し、過酸化脂質に対する内皮障害にも保護的に作用して細小血管の恒常性の維持に重要な役割をはたしていること、(2)したがって、糖尿病性網膜症の初期に認められる網膜周皮細胞の選択的消失(pericyte loss)が生じると血管新生や血栓傾向がひきおこされ、網膜症が進展、増悪すること、(3)糖尿病状態で促進的に形成される終末糖化産物(AGEs)が、細胞表面に存在するAGEsレセプター(RAGE)を介してpericyte lossをひきおこす一方、内皮細胞に働いて血管内皮増殖因子(VEGF)のオートクライン分泌を促して血管新生を促進させることを明らかにしてきた。今回我々は、色素上皮由来因子(PEDF)のAGEsによる周皮細胞障害、血管新生誘導に及ぼす影響について検討した。その結果、PEDFは濃度依存的に周皮細胞に働き、AGEsによる細胞内酸化ストレス産生の亢進、DNA合成の抑制、アポトーシスの誘導を抑えることが見い出された。また、PEDFはAGEsによるbcl-2遺伝子の発現低下を抑制し、bcl-2/bax比を改善して抗アポトーシス作用を呈することも見い出された。さらに内皮細胞においてPEDFは、AGEs-RAGEによるNADPHオキシダーゼの活性化を抑え細胞内酸化ストレスの産生を抑制し、Ras-NF-kBによるVEGF遺伝子の発現誘導を抑えることで、血管新生に抑制的に作用することが見い出された。また、周皮細胞、内皮細胞膜表面には、PEDFと特異的に結合する膜蛋白の存在が示唆された。さらにPEDFはin vivoにおいても抗酸化的に作用し、AGEs投与によるVEGF過剰発現を介したラット網膜血管透過性の亢進を抑制することも明らかにされた。PEDFは抗酸化活性を介してAGEs-RAGEによる細胞内情報伝達を阻害することで糖尿病網膜症の発症、進展を阻止できるかもしれない。

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© 2005 日本糖尿病学会
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