抄録
糖尿病、高脂血症、高血圧は心血管疾患に対する独立した危険因子である。しかし、2型糖尿病の高インスリン血症が高血圧の発症に促進的に関与、またインスリンの作用不足が高脂血症の発症に促進的に関与することなどから、共通の土壌(common soil)からお互いに複雑にからみあって各々発症することが想定される。このような現状のなかで糖尿病における心血管疾患の発症に及ぼす血糖コントロールを考察するとき、2つの問題点に焦点をあわせてみたい。 はじめに血糖コントロールの関与度である。まず、インスリン抵抗性のない1型糖尿病とインスリン抵抗性を背景にして発症する2型糖尿病を分けて考察する。日本人1型糖尿病における心血管疾患の合併は当センターにおいても稀であるので、欧米人1型糖尿病患者における報告(EURODIAB、Pittsburgh Epidemiology of Diabetes Complications Study、略して EDC、ならびにDCCT/EDIC)から検討する。総じて冠動脈疾患と血糖コントロールの関連性にはありとするものとなしとするものがある。なしとする報告は対象全体の血糖コントロールが良好でないために他の因子との統計学的有意差を出すことが困難であったと考えられる。DCCT/EDICはDCCT時の強化インスリン群の血糖コントロールが他の因子とは独立してDCCT後のIMTの進展を有意に抑制することを明らかにした。これは1型糖尿病においても他の因子より血糖コントロールの重要性を示す。 次ぎに、IFG、IGT、2型糖尿病と分けて、心血管疾患に対する血糖コントロールの予測度および関与度を考察してみる。舟形スタデイ、DECODE/DECODAスタデイとも GTT時のIFGは心血管疾患に対する危険因子とはならないが、糖負荷後2時間血糖値が他の因子とは独立して危険因子となった。糖尿病と診断された患者を対象にした調査(UKPDS、DIS、Kumamoto Study、など)になると、血糖コントロールや食後血糖値が心血管疾患の危険因子としてあげられるが、リスク減少率が細小血管障害より小さかったり、脂質代謝異常や血圧の重要性が血糖コントロールとは独立して増してくる。糖尿病患者に対するこれらの薬剤の効果は多くの大規模調査で証明されている。まとめると、血糖値は食後だけ高い時期から心血管疾患の危険因子となるが、糖尿病になると血糖値だけでなく他の因子の影響も同等に大きくなることが示唆される。 最後にインスリン抵抗性のある糖尿病患者に対するインスリン治療による血糖コントロールが心血管疾患の危険因子になりうるかどうかであるが、今日これは否定的である。