抄録
1型であれ2型であれ糖尿病患者の50%は最終的にが高血圧を合併する。糖尿病における高血圧の成因には、高血糖・インスリン抵抗性/高インスリン血症・交感神経の緊張・糖尿病性腎症などが関与する。最近では、血管内皮細胞機能の障害による一酸化窒素(NO)の低下や、脂肪細胞から産生されるアディポサイトカインであるアディポネクチンの低下も、高血圧に関与することが示唆されている。
高血圧の合併は、心血管系疾患の発症率を2~3倍増加させ、さらには糖尿病性網膜症や神経障害や腎症の進行を促進する。HOT StudyやUKPDSで示されたように、糖尿病患者おける厳格な血圧コントロ-ルは血糖コントロ-ルに優るとも劣らないほど心血管系疾患の発症率を減少させ、糖尿病性腎症の進展を遅延させる。このような点を踏まえ、日本糖尿病学会の「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」(JDS2004)では、糖尿病は高リスク群との考えから降圧目標を130/80 mmHg未満としている。すなわち、血圧が140/90 mmHg以上あれば降圧薬による治療を直ちに開始し、130-139/80-89 mmHgの場合にはライフスタイルの修正を指導し、3_から_6ヶ月後に血圧が130/80 mmHg未満に低下しなければ降圧薬を開始する。そして、糖尿病患者における第一選択薬は、臓器障害を改善しインスリン抵抗性を改善するACE阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)・長時間作用型Ca拮抗薬を勧めている。糖尿病患者の高血圧が治療抵抗性のことが多く複数の降圧薬が必要であることが多い。したがって、少量の利尿薬尿が必要な場合もあること、虚血性心疾患がある場合にはβ遮断薬が必要なことも述べられている。
従来ある程度進行するとpoint of no returnがあり非可逆的と考えられてきた糖尿病性腎病変が、長期間正常血糖を維持することで可逆的である可能性が報告された。ACE阻害薬やARBで平均血圧を92 mmHg未満(125/75 mmHg未満に相当)に厳格にコントロ-ルすると、蛋白尿が減少し、あるいは微量アルブミン尿が正常化すること(寛解/退縮)が示唆されている。