抄録
1.はじめに インスリン療法は、患者が安全に実践・継続できるよう療養指導をすすめる必要がある。具体的には、患者の血糖を適正にコントロールするために多種の「インスリン製剤」を選択し患者のライフスタイルも考慮した処方と、患者にやさしい「インスリン注入器」を選択し安全にかつ確実な注射を実践できるよう手技を説明することである。2.インスリン製剤の種類とその説明 現在、わが国の市場に出ているインスリン製剤の種類は、インスリンの作用発現時間と持続時間によって大別されるが、患者への療養指導ではインスリンの性状(結晶など)や吸収のメカニズムなどを解説してもらう。著者らの調査(日病薬誌,39,453,2003)では、約30%の患者が注射のタイミングを守っていないとういう結果があるので、注射と食事のタイミングも含めたコンプライアンスにも注意する。説明項目は、自分の使用しているインスリンの (1) 名称、(2) 単位と注射のタイミング、(3)(容器・包装の)デザインを覚えてもらう。3.インスリン注入器の種類と特徴 現在使用されている注入器は多数あるが、カートリッジ使用型とプレフィルド型に大別され、それぞれには特徴がある。したがって、患者に合った注入器を選択することも、患者のQOLを考える上で非常に重要である。その基準は、患者の理解力、手技力、家族の協力度などである。また、注射1回の単位数や1日の総単位数も参考にする。自己注射説明の項目は、糖尿病薬物療法の基礎、インスリン製剤とその性質、注射の準備、保険点数、ペンの仕組み、操作の流れ、操作のコツと失敗例、トラブル時の対処法、注射部位、針の廃棄法、インスリン製剤の保管と交換、低血糖とその対処法、シックデー、SMBGの有効利用、生活パターンと自己注射である。4.おわりに インスリン注射の説明は、操作法だけ説明すればよいというわけには行かない。自己管理能力とセーフティマネージメント能力を高めることが患者教育での目標となる。簡単に注射ができればその方がよいが、そのために操作手順を何でも割愛してよいということではない。患者には、自分のために自分で安全に注射を行うためのノウハウを提供したい。その理由は、インスリン製剤は“劇薬”という「モノ(医薬品)」だからである。