抄録
糖尿病網膜症は糖尿病患者の増加とともに視力障害の原因として眼科医療における重大な問題である。高齢者に加えて比較的若い世代にも糖尿病患者が増加している。若い世代での糖尿病網膜症は重症化しやすく、治療が困難であるばかりでなく社会活動が制限され大きな問題になっている。このように糖尿病網膜症の診療では失明を防ぐだけでなくよりよい視力を障害保持できるような診療体系が求められている。この目的を達成するためには糖尿病および糖尿病網膜症の早期発見、早期治療が大切である。さらに進行した糖尿病網膜症の治療の基本は高血糖、高血圧、高脂血症など全身因子の管理をおこなうことと眼科的な治療(光凝固、硝子体手術など)のタイミングを逃さないことである。本講演は、糖尿病網膜症診療についての最新の情報を提供し、今後、糖尿病診療をおこなう内科、眼科、療養指導者などにより形成される診療のチーム形成に資することを目的とする。主に以下のような項目について解説する。1.糖尿病網膜症の病像:糖尿病に伴い網膜血管が傷害されることが基本的な病態である。血管新生の見られない非増殖網膜症と血管新生がみられる増殖網膜症に大別される。網膜症初期には血管傷害により透過性が亢進し、血液成分が漏出し、網膜出血、硬性白斑として観察される。さらに進行すると網膜血管が閉塞し、軟性白斑、網膜内細小血管異常(IRMA)、静脈形態異常を認める。(以上が非増殖網膜症)。広範囲の網膜血管床閉塞が持続すると新生血管がみられ(増殖網膜症)、硝子体出血、牽引性網膜剥離を起こし、重篤な視力障害をみる。2.糖尿病網膜症重症度分類:糖尿病患者の治療で最も大切であるのは診療中断を防ぐことである。そのためには、治療のチーム構成員が患者情報の共有することが大切である。このために必要な網膜症の国際重症度分類が提唱されたので紹介する。3.糖尿病網膜症診療における早期発見システムの構築の重要性:DCCT/EDIC、Kumamoto Study, JDCStudyなど大規模疫学研究の成果により解説する。4.糖尿病網膜症の最新の治療の紹介:現時点で眼科においておこなっているステロイド局所療法、網膜光凝固、硝子体手術について紹介する。