アフリカ研究
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特集:アフリカ的農業イノベーション(1)外来技術のアフリカ的導入
マダガスカルにおける在来稲作技術から見た新規稲作技術
─SRA・「緑の革命」・SRI・PAPRiz─をめぐるイノベーションについての考察
深澤 秀夫
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2022 年 2022 巻 101 号 p. 9-20

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抄録

本論は,イノベーション論を援用しながら,20世紀以降マダガスカルに導入された新規稲作プロジェクト「改良稲作」 SRA (Systeme de Riziculture Amélioré),「緑の革命」“green revolution”,「集約的稲作」 SRI (the System of Rice Intensification),「中央高地コメ生産性向上プロジェクト」 PAPRiz (Project for Rice Productivity Improvement in Central Highland) 四者の特質を,「在来稲作」との連続性の視点から明らかにする事を目的とする。稲苗の分けつの促進による高収量を新品種の開発として実現したのが「緑の革命」であり,その事を稲苗の育成法と水田の管理法の開発によって実現したのが SRI である。一方,PAPRiz には,分けつをめぐる新品種の創出も新栽培技術の開発も無い代わりに,優良品種の提供と選別,稲苗と水田の管理法,何れもが技術パッケージの中に含まれている。これらの技術特性に基づき,「緑の革命」は短時間で広域に普及したものの,高収量品種の適切な栽培環境の維持をめぐる障害が生じ,その実践と受容の見直しが急速に進んだ。また,SRI は,稲苗と水田の管理法に基づく分けつの促進が核心にあるため,技術パッケージの一体性と労働力の集約性が強い稲作法となり,当初から集約的稲作が行われていた地域をこえる普及に制約が生じた。一方,PAPRiz が,「個別農家経営体による選択」を技術パッケージ普及の基礎に置き,品種にも栽培管理技術にも偏重せず,単収の向上を可能とする技術を網羅する事により,実施地域を拡大させている理由は,イノベーション論に基づき専門家自身が普及戦略に重点をおいて策定したプロジェクトである点に求められる。

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© 2022 日本アフリカ学会
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