ウガンダでは,主食用のバナナが盛んに栽培・利用されているが,2000年代より病虫害による深刻な生産減に陥っている。政府はその対策として,遺伝子組み換え(GM)バナナの開発と,一般での栽培に向けた法整備を進めている。本論文ではウガンダのGMバナナをめぐって,その開発・普及にかかわる先行研究を整理するとともに,農民の品種選択の側面に注目することで,新たな論点を提示して検討した。
シュヌアによるポリティカルエコロジー論の研究などから,GMバナナの開発プロセスにおいてドナー・政府・農民の間に目的や意識のずれ,断絶がみられ,その普及においても,農民の苗へのアクセスが困難になり,また生産コストが増大することが問題視された。
筆者の調査結果から,ホームガーデンでの農民の営みをとおして,これまでの改良品種への対応と同様に,品種多様性を維持したまま慎重にGMバナナを取り込んでいくことが予想された。ただし,品種多様性を支える繊細な感性や知識がGMバナナへの急速な置き換えによって失われることへの懸念が示された。
そして,前者の議論の中心は,社会経済的な階層を想定した集合体としての権利であるのに対して,後者は,自らの畑の中で得た知識と経験をもとに自由に選択,判断するという個々の農民の主体性であることを論じた。また,後者の議論における主体性は,これまでGM作物をめぐって検討の遡上にあがることがなかったが,品種多様性の維持といった問題を考慮にいれる際には重要となることを指摘した。
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