アフリカ研究
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2022 巻, 101 号
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特集:アフリカ的農業イノベーション(1)外来技術のアフリカ的導入
  • ─アフリカにおける農業イノベーションの諸特徴
    鶴田 格, 小松 かおり
    原稿種別: 特集:アフリカ的農業イノベーション(1)外来技術のアフリカ的導入
    2022 年 2022 巻 101 号 p. 1-8
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本特集の目的は,サハラ以南アフリカの小規模家族農業の特質を検討したうえで,そこで展開する草の根レベルのイノベーションについて,外来技術の導入という観点から検討することである。アフリカ農村のイノベーションの特徴としては,①個別多発性,②農業技術の「道具箱」としての性質,③技術発展経路の可逆性,などがあげられる。農民は基本的に外来の技術や新奇な作物に対して開放的であり,メリットがありなおかつ費用や労働の追加的な投入がなければ受け入れるが,古い技術や作物をも同時に残しておき,必要とあれば新旧どちらの選択肢もとれるようにしておく傾向がある。また新技術が既存の農法の小規模な変更にとどまり,体系的な変革をもたらさない,ということも重要である。このような農業イノベーションのあり方は,近代農法のパッケージをまるごと導入させるような緑の革命的な農業技術革新のあり方とは対照的であり,とくに環境的な持続性とレジリエンスという観点から再評価されるべきである。

  • ─SRA・「緑の革命」・SRI・PAPRiz─をめぐるイノベーションについての考察
    深澤 秀夫
    原稿種別: 特集:アフリカ的農業イノベーション(1)外来技術のアフリカ的導入
    2022 年 2022 巻 101 号 p. 9-20
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本論は,イノベーション論を援用しながら,20世紀以降マダガスカルに導入された新規稲作プロジェクト「改良稲作」 SRA (Systeme de Riziculture Amélioré),「緑の革命」“green revolution”,「集約的稲作」 SRI (the System of Rice Intensification),「中央高地コメ生産性向上プロジェクト」 PAPRiz (Project for Rice Productivity Improvement in Central Highland) 四者の特質を,「在来稲作」との連続性の視点から明らかにする事を目的とする。稲苗の分けつの促進による高収量を新品種の開発として実現したのが「緑の革命」であり,その事を稲苗の育成法と水田の管理法の開発によって実現したのが SRI である。一方,PAPRiz には,分けつをめぐる新品種の創出も新栽培技術の開発も無い代わりに,優良品種の提供と選別,稲苗と水田の管理法,何れもが技術パッケージの中に含まれている。これらの技術特性に基づき,「緑の革命」は短時間で広域に普及したものの,高収量品種の適切な栽培環境の維持をめぐる障害が生じ,その実践と受容の見直しが急速に進んだ。また,SRI は,稲苗と水田の管理法に基づく分けつの促進が核心にあるため,技術パッケージの一体性と労働力の集約性が強い稲作法となり,当初から集約的稲作が行われていた地域をこえる普及に制約が生じた。一方,PAPRiz が,「個別農家経営体による選択」を技術パッケージ普及の基礎に置き,品種にも栽培管理技術にも偏重せず,単収の向上を可能とする技術を網羅する事により,実施地域を拡大させている理由は,イノベーション論に基づき専門家自身が普及戦略に重点をおいて策定したプロジェクトである点に求められる。

  • ─SATREPSプロジェクトを事例に
    藤岡 悠一郎
    原稿種別: 特集:アフリカ的農業イノベーション(1)外来技術のアフリカ的導入
    2022 年 2022 巻 101 号 p. 21-34
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,アフリカの在来農業におけるイノベーションが生じるプロセス理解のための一事例として,ナミビア北中部の農牧社会を対象に,農家が有している在来知や農家の認識が変化する要因やその過程に関する知見を報告する。具体的には,同地域を対象に実施された地球規模課題対応国際科学技術協力 (Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development: SATREPS) プロジェクトの実施期間において,農家がプロジェクトの提案する外来技術を受容/拒否する判断の際に在来知がどのように作用するのかを明らかにした。ナミビア北部の農牧社会において,農家がこれまでに経験をしたことのない小湿地の農業利用という農業技術をプロジェクト側から提案された際に,農家は作物の作付けと小湿地の生態環境に関する在来知を組み合わせ,新たな農業実践を行っていた。他方,プロジェクトが提案した内容と農家の農業実践の間には齟齬がみられた。その理由として,農家が在来知を持ち合わせていなかったイネの栽培という新技術は,農家が日常的に実施している実験の一環として比較的農家に受容されたのに対し,トウジンビエやモロコシの湿地栽培という既存の在来知の改変をともなう提案については,農家が有する在来知に即して合理的でないと判断され,拒否に繋がった可能性があることを指摘した。

  • ─品種多様性との関係から
    佐藤 靖明
    原稿種別: 特集:アフリカ的農業イノベーション(1)外来技術のアフリカ的導入
    2022 年 2022 巻 101 号 p. 35-47
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    ウガンダでは,主食用のバナナが盛んに栽培・利用されているが,2000年代より病虫害による深刻な生産減に陥っている。政府はその対策として,遺伝子組み換え(GM)バナナの開発と,一般での栽培に向けた法整備を進めている。本論文ではウガンダのGMバナナをめぐって,その開発・普及にかかわる先行研究を整理するとともに,農民の品種選択の側面に注目することで,新たな論点を提示して検討した。

    シュヌアによるポリティカルエコロジー論の研究などから,GMバナナの開発プロセスにおいてドナー・政府・農民の間に目的や意識のずれ,断絶がみられ,その普及においても,農民の苗へのアクセスが困難になり,また生産コストが増大することが問題視された。

    筆者の調査結果から,ホームガーデンでの農民の営みをとおして,これまでの改良品種への対応と同様に,品種多様性を維持したまま慎重にGMバナナを取り込んでいくことが予想された。ただし,品種多様性を支える繊細な感性や知識がGMバナナへの急速な置き換えによって失われることへの懸念が示された。

    そして,前者の議論の中心は,社会経済的な階層を想定した集合体としての権利であるのに対して,後者は,自らの畑の中で得た知識と経験をもとに自由に選択,判断するという個々の農民の主体性であることを論じた。また,後者の議論における主体性は,これまでGM作物をめぐって検討の遡上にあがることがなかったが,品種多様性の維持といった問題を考慮にいれる際には重要となることを指摘した。

論文
  • ─エチオピア南部ボラナにおけるリーダーの選出戦を通して想起される「歴史」に焦点をあてて
    大場 千景
    原稿種別: 論文
    2022 年 2022 巻 101 号 p. 49-66
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,エチオピアのクシ系農牧民ボラナにおいて8年毎に行われるリーダーの選出戦にみられる言説と実践,並びに歴代のリーダーの系譜と彼らに関する歴史記憶を分析することを通して,ボラナにおける「歴史」の生成 / 継承とガダとよばれる土着の政治体系との相関関係について考察した。1章では,ボラナの人々が実践するガダと呼ばれる年齢階梯制に基づく政治組織について概観した後,2011年から2019年までの間に行われたガダのリーダーたちの選出戦の過程について,特に選出戦の中で想起される歴史記憶に焦点をあてながら記述した。2章では,歴史記憶に基づいてリーダーの条件が規定されていることについて記述しながら,18世紀後半に始まるアドゥラとよばれるガダのリーダーたちの系譜と彼等の系譜に関わる歴史記憶を検討した。そして,アドゥラの地位が43の父系リネージの中でのみ世襲されてきた背景には,権力の正当化 / 非正当化に歴史記憶が深く関わってきたという点を指摘した。3章では,歴史記憶が政治化されているという現象についてさらに考察した。権力を保持するために歴史を「管理」しようとする権力者側と権力者の横暴を記憶し,歴史を通して権力の乱用を「監視」しようとする民衆側からの双方向の絶え間ないメモリーポリティクスがボラナの口頭年代史の生成と継承に深く関与していることを明らかにした。

  • ─マラウイ農村における社会的保護政策とトウモロコシ消費
    五野 日路子
    原稿種別: 論文
    2022 年 2022 巻 101 号 p. 67-78
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,マラウイで実施されている農業投入財補助金政策と社会的現金給付政策に注目し,農村世帯が十分な量のトウモロコシを消費するには,トウモロコシ生産量または購入量のどちらを優先して増やすべきかについて検討した。多くの農村世帯がトウモロコシの自家生産による不足を購入によって賄っているが,購入によっても不足するトウモロコシ消費量を賄うことができない状況にある。このような状況下で,多くの農民はトウモロコシ購入を容易にする現金給付政策ではなく,トウモロコシ生産増につながる投入財補助金政策を望んでいた。しかし調査世帯のトウモロコシ生産・消費と所得の特徴を詳細に検討した結果からは,トウモロコシ生産量を増やすだけではなく,個々の世帯の特徴に応じて購入量を増やすための支援も,12ヶ月分のトウモロコシを十分に確保するには必要であることが示された。合わせて農民が現金を確実に蓄え,現金を必要とするときに使用できるよう,社会的現金給付政策の施行方法の工夫も必要である。本研究を通して,マラウイ農村における貧困と食料不足の問題を考える上では,生産面または購入面どちらか一方のみを捉えて考えるのではなく,両側面を考慮した農業・農村開発協力を模索することが大切であることが示された。

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