アフリカ研究
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アンゴラ北東部におけるチョクウェの「親指ピアノ」の多様性と生活世界
池谷 和信
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2002 年 2002 巻 60 号 p. 75-84

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抄録

「親指ピアノ」は, アフリカで生まれ, 現在でもサハラ以南のアフリカ各地に広くみられる楽器である。本稿では, アンゴラ北東部に暮らすチョクウェの音文化のなかで「親指ピアノ」に焦点をおいて, その楽器の形態やそこから演奏される曲の歌詞を分析することから, チョクウェの音文化と生活とのかかわりあいを把握する。調査は, アンゴラ北東部のドュンド町内や近郊に住む9人の演奏者を対象にして, 聞き取り調査や演奏曲を録音する作業をおこなった。
チョクウェは, アンゴラ東部を中心にして居住するバンツー系の人々である。彼らは, キャッサバ栽培などの農耕を中心として, 狩猟, 漁労, 出稼ぎなどを複合させた生業を営んでいる。まずこの地域では, 各々の形態の違いに応じて独自の名称を持つ8種類の「親指ピアノ」を確認できた。また, 収集された43曲は, 男性によって単独で演奏されるのもので, すべての曲に歌詞がついていた。このうち31曲の歌詞の内容を分析すると, 経済生活, 男女関係や親子関係, 日常生活, 出来事, 割礼儀礼, 植民地時代の歴史などに分類される。さらに, 1960年代の報告と現在のものとを比較すると,「親指ピアノ」は, 娯楽としては使われている点では共通しているものの儀礼の際には用いられなくなっていた。本稿ではこの楽器の機能として, 歌詞のなかに登場していた様々な出来事が次の世代に伝承されていくことから, 当時の生活世界が反映された個人史が伝承される点に注目している。

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