アフリカ研究
Online ISSN : 1884-5533
Print ISSN : 0065-4140
ISSN-L : 0065-4140
焼畑農耕民社会における「自給」のかたちと柔軟な離合集散
ザンビア, ベンバにおける「アフリカ・モラル・エコノミー」
杉山 祐子
著者情報
ジャーナル フリー

2007 年 2007 巻 70 号 p. 103-118

詳細
抄録

モラル・エコノミーという概念は,「生計維持的」または「自給的」生産と表現されるような, 生産の側面での特徴をもとに語られることが多かった。一方、生態人類学では, アフリカ農耕民の生計の特徴を消費の側面に見いだし生産の不均衡をならす「平準化機構」に注目してきた (掛谷, 1974)。これをふまえて杉村 (1994) は「消費の共同体」論を展開したが、本稿ではその一事例として, ザンビア北部に住み焼畑農耕を営むベンバの社会をとらえる。ベンバでは1930年代から出稼ぎ労働が常態化し, 現金経済が浸透した。その一方でチテメネ・システムに軸足をおいた生計を営み, 国家の経済との間にある種のバッファを介在させながら, 国家の経済とは別の論理でくらしを立ててきた。生計の基本には「必要に応じて調達する」という姿勢があり, 分かち合いに根ざした平準化機構に支えられている。世帯の垣根を越えた労働力の利用と柔軟な離合集散は, 特定の世帯への富の蓄積を抑制するだけではなく, 1990年代初頭には, 世帯構成の差異に関わりなく, 新しい作物や農法が村全体に普及することを可能にした。本稿はこのような分析を通じて, 世帯や村を越えた柔軟な離合集散が, アフリカ・モラル・エコノミーの中心的な特徴をなすことを指摘する。

著者関連情報
© 日本アフリカ学会
前の記事 次の記事
feedback
Top