2022 年 13 巻 p. 42-53
本稿の目的は、南アフリカ共和国(以下、南ア)の高等学校段階の必修教科であるLife Orientationの教科書を事例とした分析を通じて、グローバル化に関わる教育について考察することである。その背後には、既存の研究で十分に取り上げられてこなかった南アの具体的事例をもとに、日本(語)でなされてきた上記の教育の理論を一層洗練化する上で参照し得る点を描写することを試みるという狙いがある。本稿で取り上げた上記の教科の教科書の事例分析の結果、例えば、第1に、「市民」概念と「ネイション」概念が様々な形態で採用されていることを指摘する。第2に、「南アフリカ」という「国」概念が、ニュートラルに用いられる場合と意図的に用いられる場合があることを指摘する。第3に、グローバル化に関わる視点が、グローバルからローカルな段階へと移行するのみならず、ローカルからグローバルな段階へも移行していることを指摘する。また、分析結果を踏まえつつ、「ネイション」という枠組みがグローバル化に関わる教育の中で立ち現れるという点が、日本(語)の文脈で理論的に議論されてきた点とも親和的であることなどを指摘する。